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熱い体温、濡れる頬1
【東峰 春side】
「ふっ、ぅっ、うっ」
「ちょ、東峰?どうしたんだよ、…大丈夫か?」
なんで俺、冬森先輩の前で涙なんか流してんだろう。
俺ってほんと……情けない。
俺は、自分の都合で受け入れたり、振ったり。
その上泣いて、そばにある冬森先輩の胸に、体を預けている。
いやだ。こんな、こんな俺……。
「どうしたんだ……東峰」
先輩に優しく声をかけられる度、涙がどっと次々に溢れ出した。
先輩は優しい。
先輩はいい人で、俺は、明らかに悪者で。
こんな俺を好きなんて……先輩はどうかしてる。
ぎゅっと先輩の胸あたりの服を手で握ると、先輩はよしよしと、俺の頭を撫でた。
一瞬――錯覚する。
もしかして俺は、先輩のことを好きなんじゃないかって。
でも、本当に錯覚?
本当に俺は、先輩のこと何とも思ってないのか?
分からない。自分の気持ちなのに、なにも分からない。
なんで……
「っんふ」
急に顎を上に上げられて、冬森先輩に唇を塞がれた。
息のできなくなる感覚に、はあはあと酸素を少しの隙間から取り入れた。
「ごめん、」
唇を離してから、先輩が言った。
「つい、したくなって…」
「…」
「ごめんな」
謝る先輩に、何故だかまた涙が出た。
これってあれだ。
疲れてるから、俺、こんなに涙が出るんだ。
この涙に意味なんてないんだ、きっと。
ぎゅっと先輩にしがみついて、胸に顔を埋めて泣き続けていたら、先輩がふと俺の体をゆっくりと離した。
見上げた先には、眉を悩めかしく寄せて困った表情をする、初めて見る先輩の顔。
「こういうことされると、俺…変なことしそうになる。ごめん、だから離れて」
先輩は、チャラそうな見た目のくせして、言うことなすこと、全部その容姿に反してるから…ずるい。
なんで、何で俺なんかに、そんなふうに思ったりするの。俺の何が、そんなに魅力的だっていうんだ。
わかんないよ、先輩。
先輩絶対、ズレてるよ……。
「俺と、“したいんですか?”先輩」
俺の問いかけに、微かに先輩の体が動いた。
墓穴掘ってんなって、自分でも分かってるけど、でも、俺……
「先輩…」
駄目だ。俺、今絶対、頭……狂ってるんだ――
***
ギシッと、ベッドが軋む音がした。
先輩の家が、一人暮らしで、三階建てのアパートに住んでることなんて、知らなかった。
「本当に、いいのか?」
先輩のベッドの上に横たわる。
上にある、先輩の顔を見つめる。
……ああおかし。俺今から、男なのに、男の先輩に抱かれるんだ。
「…いいです。先輩の好きにして、いいよ」
ぼうっと外の雨音を聞きながら、そう言った。
ベッドの上にまで上げといて、今更やめられないことは、俺も知っていた。
先輩は、俺にわざわざ了承を得て、それで安心したいのかな…。
「……じゃあ、勝手にするけど」
ふいに、先輩にシャツを捲られる感覚に、俺は目をぎゅっと瞑った。
先輩に乳首を抓られ、引っかかれる度、だんだんと自分のものとは思えない声が口から出た。
…なんだこれ、分かんない。
そんなとこ、いじったことないから分かんないけど、でも、気持ちよくて。
それから、先輩に下を全て剥がれる感覚に、俺は息を飲んだ。
先輩の目が、上から俺を見つめた。
どうすればいいのかわからなくなるほどの、大き過ぎる羞恥。
「せん」
「東峰、」
声が被った。
……緊張してる、俺。
緊張なんて、そんなもので表せられないほどに、緊張している。
冬森先輩は…?
先輩は緊張とか、してないのかな。
「痛く…しないように、するから」
先輩の優しさが、余計に恥ずかしさを煽った。
やめて、…そんな顔で、俺を見ないで。
先輩で、頭が全部、いっぱいになる。
冬森先輩だけが、頭を全て支配していく。
やめて、やめてくれ……
先輩の手が、俺に触れた。先輩の手は熱すぎて、少しだけ怖かった。
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