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好きだよ、全部2

【冬森 郁斗side】 …何でこんなこと、するんだろう。 わけがわからずに、目を大きくして東峰を見つめていると、彼が口を開いた。 「ここにいて……くだ、さい」 彼の発言に、耳を疑った。 ここにいて欲しい?何で? 何でそんなこと思うの? だって俺は、あの日、あんな最低なことを、…したんだぞ。 「おっ、冬森〜〜ちょうどよかった〜っ!東峰の面倒見てやってくれな〜〜」 「はあっ?」 店長から予想外な話を振られ、俺はまた動揺した。 店の隅で、東峰にぎゅっと今も尚掴まれている服の裾に、俺はどうしたものかと頭を悩ませる。 ……つーか何で。 意味わかんねぇ。何でこんなこと、するんだ。 東峰、俺のこと好きなの?嫌いなの?…どっちなの。 なんだよ、この行動は。 「はぁ」 でも、東峰いま酔ってるから、こんなことしてるだけなのかもな。深い理由なんて無いのかも…。 そりゃそうか。 「東峰、お前……何で酒」 ひとまず彼に声をかけながら振り向いて、俺は目の前に映る彼の姿に息を呑んだ。 東峰は、何故かまたぼろぼろと涙を流して、再び泣き始めていたからだった。 え、つか、……何で!? 「な、…ど、どうした、東峰っ?」 ひくっひくっと、嗚咽を出し始める東峰に困惑しながら尋ねる。 「なにかあったのか?大丈夫か、東峰」 とりあえずぽんぽんと背中を触って、さすって、それでも泣き止まないから、つい頭を撫でてみたけど、 「仲いいなぁ〜お前ら〜」 いつの間にやら、にやにやとして俺たちを見ていた店長に声をかけられ、俺は思わずギクッと体を硬直させる。 流石に頭を撫でるのは、不味かっただろうか。 男同士なのに、確実に変だったよな……。 じゃあどうすればいいんだよ、ああもうっ! 「と、東峰……とりあえず、落ち着いて。何かあったなら言えよ。もう泣くな」 東峰の腕を取って言った、その瞬間。 ベシッと、彼に手を振り払われた。 え…… 「触んないでください」 「東峰…」 「先輩なんか…… あっち行けばいーじゃんっ!」 東峰は、キッと威嚇したような目を俺に向けていた。 東峰の突然の言動に、自分でも信じられないくらいの大きなショックを受けた。 分かっていた。 彼が俺を、以前から何とも思っていないことくらい。でも―― 「止めたの、東峰じゃん」 俺は負けじと、そう言い返した。 すると東峰は、嫌々と子どもがするような頭を振る素振りをしている。 「先輩は、やっぱり俺…やなくて…女の子の方が、いいんらもん…っ」 ……は。 それから彼が発したものは、あまりに予想していなかった発言で。 「俺に…あんなことして、なのに先輩は、俺のこと好きって言ったのに、無視、するし……。俺のこと、見てくれないしっ」 「え?」 「先輩なんか…、大っ嫌い…っ!」 涙を流して、泣きじゃくりながら言う東峰に、俺は思考を停止させて固まった。 なに言ってるんだ?東峰。 それってなんか、まるで俺のこと好き……みたいな、そんなふうに聞こえるんだけど。 いや、でも、違うのか? だけどなんか、今のそれっぽくなかった? 「東峰。お前俺のこと」 「もう早くあっち行ってくださいっ、放っといてください…!」 そう喚きながらも、東峰は俺の服の裾を掴んだままで、離そうとする素振りはなかった。 えっと…一体何なんだ、これは。 この意味のわからねぇ状況は。 なんか言ってることとやってること、明らかに真反対なんだが……。

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