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好きだよ、全部3
【冬森 郁斗side】
「冬森が東峰泣かしてる〜〜」
「、店長…!余計なこと言ってこないで下さい!」
言いながら、俺は掴まれた服の裾と、東峰の感情的な姿に激しく戸惑う。
東峰酔ってて、こんなこと言ってるだけかもしんねぇし。とは思いつつも、胸に淡い期待を抱いてしまう。
「ぅう…っ 先輩のバカ〜〜…っ」
眉を下げて、涙をこぼしながら声を上げる東峰。
ああ…俺って重症だ。
飲んだくれてる、東峰のことが可愛くてたまらない。
放って置けない。
喚いてる彼の、面倒がみたいだなんて。そばにいてやりたい、……なんて。
俺って絶対、――頭おかしーわ。
「店長。東峰ヤバそうだし、俺、送って先に帰ります」
俺のこと好きなのかは正直まだよく分かんねえけど、でも、俺には全部、本当の顔見せてほしい。
あー…て俺、また自分勝手なことを。
「東峰、乗れよ」
ふわふわとして酔っ払っている東峰を、バイクに乗せるのは少々心配だったが、乗せる他なかった。
けれど、意外にもぎゅっと、後ろから俺の腰にしっかりと手を回す東峰。
「先輩のとこ…行きたい」
「え?」
その日、東峰に俺は何度も心を揺さぶられ、ちぐはぐな言葉ばかりを吐く彼に、すっかりペースを乱されていた。
***
その後、アパートに着く。
俺はバイクを止めて、後ろに座る東峰に着いたぞ、と声をかけた。
しかし、中々両手を腰に回したまま動かない東峰に、俺はまさかと思いながら後ろを振り返って彼を見た。
すると、思いっきり目を瞑っている東峰。
え……
バイク乗って寝てたとか、リアルに笑えないんですけど。
こえぇ〜…
とりあえず東峰に被せていたメットを外してやってから、うーうーと唸りながらも歩こうとしない東峰を背におぶって、俺はアパートの階段を上った。
まさか20歳になって、一個下の同性をおぶるなんてこと、今日の今日まで全く予想してなかったけどな。
「あーあーおも」
独り言のように呟くと、後ろからポカッと、寝てるのか起きてるのか分からない東峰に頭を叩かれた。
まあ力入ってないから、全然痛くないんだけど。
「った。何すんだよ」
「先輩のバカ……、馬鹿ぁ〜〜っ」
普段と違いすぎる東峰に笑う。
馬鹿馬鹿ってもう、先輩に対してそんなこと、言っていいと思ってんのか。
俺だから、許してやるんだぞ。そういうこと、分かってんのか。東峰、お前は。
「鍵……どこやったっけ」
東峰を抱えながら、Gパンのポケットを探った。
その間に後ろでまた何か唸る東峰に、はいはいと言って諭しながら、ようやく見つけた鍵を鍵穴に差し込んで部屋の中へと入る。
電気を点けて靴を脱ぎ、とりあえず東峰をベッドで寝かせた。
くた〜っとして、俺のベッドに体を沈ませる東峰に、俺は呆れながらも履きっぱなしの靴を脱がせた。
俺って相当、まじで面倒見良いな。
つか、…よすぎ?か。
ちょっと、自分が健気な女のコみたいで笑えた。
「東峰。水飲むか?そのまま寝んのか」
俺は彼に尋ねながら、コップに水を入れて彼の元へと向かう。
東峰は、むくりとベッドから体を起こして、泣き腫らした目を下に向けていた。
コップを渡すと、東峰は受け取ったが、飲もうとはしなかった。
「東峰。お前さ、もう酒飲めるのか?」
「……」
「あんまり無理するなよ。てかお前、酒飲むの初めてってあれ、まじ…」
「一昨日、」
口を開いた東峰に、俺は一度話すのを止めた。
一昨日…?
じっと続きを待っていると、東峰が言う。
「一昨日、誕生日だったから」
「え?」
「20歳になった…から、お酒、飲めます」
誕生日…そんなつい、最近だったんだ。
「おめで」
「やめてください」
すぐに遮られた声に、動揺した。
なんで…。
「先輩にそんなこと、言われる筋合いない…。先輩にお祝いされても、嬉しくなんかない」
東峰の言葉は、俺の心を奈落の底へと突き落とす。
さっきのはじゃあ、何だったんだよ。
俺を止めたのは。ここにいてって、言ったのは。
「そんなに俺が、……嫌いかよ」
悔しかった。悲しかった。
東峰に、そこまで思われていることに。
つい出た本音が、多分、彼の顔を上げさせた。
「だって、先輩に優しく声かけられると、俺……先輩しか、見えなくなる」
そう話す東峰の表情は、何かに必死に耐えていた。
「お祝いなんかされたら、俺、先輩がまた好きって、…思っちゃう。先輩、俺に優しくしないで……。俺に話しかけないで…」
悲しげに言う東峰に、俺は目を大きく開く。
東峰の言っていることは、やっていることは、以前からずっと、矛盾しっ放しで。
好きじゃないと言うのに、泣いて。
嫌いと言うのに、俺のことを離さないで。
好きというのに、話してくるなと言う。
……また、好きになる?どういうこと?
「東峰」
「先輩は、俺の面倒見て、自分の好感度あげて、本当は俺のことなんて面倒って思っててっ、先輩が俺に優しくするのは、……俺が好きだからじゃなくて」
「東峰、」
「ムカつく…… 俺のことこんなにさせといて、また優しくしてくるし…。先輩なんか、嫌いだ…… 先輩なんか、大嫌いだっ!」
喚く東峰の腕を、力強く握った。
「――東峰、いい加減にしろよ。人のこと勝手にどーのこーのって」
少々怒った顔をして彼を見ると、東峰は不安げに瞳を揺らした。
「…言ってること、お前、滅茶苦茶だよ」
東峰は、俺から目を逸らした。
「離して…」
手を振り払おうとする東峰の腕を、俺は掴んで離さなかった。
ムカつく?
なんだよ、それ。こっちの台詞だっつーの。
「離さねぇーよ」
東峰は、好きと言ったり、嫌いと言ったり。
そういうふうには見れないと突き放したり。
キスは避けて、セックスは自ら受け入れて。
そのくせいざすると、涙を流して嫌がって、泣いて。
なのに、俺のことを引き止めて、勘違いさせるような行動取ってきたりして………
俺は、いつだって彼の考えていることが分からなかった。
だけど。
もしかしたら答えは、とっくの昔に出ていたのかもしれない。
「…東峰。お前俺のこと、ほんとはどう思ってんの?」
酔っているのか、シラフなのか――
よく分からない状態の彼に真剣に訊ねる俺は、やっぱり傍目から見れば、馬鹿だと思うだろうか。
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