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抹茶とチョコ1
【冬森 郁斗side】
東峰と、よりが戻った。
なんかよくわかんねぇけど、東峰も俺のこと、好きだったらしい…。
うーん。改めて、東峰って分からん。
「冬森〜これ頼めるかー」
「あ、はいっ」
店長に返事をし、今日も俺はバイトに励む。
ちなみに、今日は東峰と同じシフト。
「こんにちは」
「…おー」
午後から、一緒だ。
「おっ。BLな二人が今日一緒か〜あははは」
東峰が入ってすぐ、店長にからかわれるように言われる。
その瞬間、東峰はビクッ!と分かりやすいくらい体を反応させた。それにつられて俺も、思わず体を軽く揺らしてしまった。
「店長、まじでやめてください……」
半ばげんなりとして、上機嫌な店長に苦言を呈す。
まあ、本人は冗談で言っているというのは分かってるけど…。
だけど実際、冗談じゃないしな、俺たちの関係って。
ちらっと東峰を見ると、下を向いて顔を俯かせていた。
東峰が酒を飲んだあの日から、約一週間が過ぎていた。
あの日はあの後、東峰はなぜか俺の腕の中で寝落ちてしまって。
とりあえずかかってきた彼の弟の電話に、俺の部屋で疲れて寝ていることを、また伝えた。
次の日、東峰はそばにいる俺に気付くと、驚いて飛び起きていた。
「なっ、なんで先輩がここにっ」
彼の第一声に、そのとき俺は内心かなり動揺していた。
「東峰、…昨日のこと覚えてないの?」
もし酒に酔ってて記憶ない、とかいうパターンだったら、どうしよう……と思っていると。
「あ」
何か思い出したように、東峰が声を出す。
「……いま、思い出しました」
どこか顔を青くさせて言う東峰。
東峰の様子を見て、俺はほっと胸を撫で下ろした。
その後は、朝食を俺の部屋で一緒にとって、大学までバイクで東峰を乗っけて送ってやって。
「…えと、あの」
「え?」
今でも、あの時のバイクを降りてから言った彼の表情を、よく覚えてる。
「お、送ってくれて、ありがとうございましたっっ!さ、さよなら!!」
そう言って、一目散に校舎へ駆けていった東峰。
まあ、色々思い出したからこそ、恥ずかしくてあんな態度になったんだろうけど…。
「東峰」
「は、はいっ」
バイト時間中、横にいる東峰にひとつ声をかけてみると、緊張しているのか明らかに様子がおかしい彼。
…うーん。
「東峰、あのさー」
「はいっ」
普通で…いいんだけどな。
何だろうな、肩に力みが入っているような。
「東峰。普段通りでいいからな」
「へっ?」
言うと、東峰は途端に顔をぼぼっと赤らめた。
その日、東峰はミスを連発するのであった。
***
「お疲れーっす」
夜8時頃。
バイトが終わった俺は、服を脱いで着替えて店を出た。
今日は勿論、バイクで来ていない。東峰と一緒に歩いて帰るために。
「…お疲れ様です」
私服に着替えた東峰は、かけていた鞄の紐を手でぎゅっと持って、俯き加減にそう言って俺の元に来た。
「おお、東峰お疲れ。帰るか」
軽く笑って言い、一歩足を踏み出すと、東峰が「あのっ」と口を開いた。
「ん?」
「きょ、今日はその、すみません。ミス、ばっかりして…俺」
落ち込んだように話す東峰。
「ああ、いいよ。あんなの」
気にしてないし。
すると、東峰は体を小さくするように、顔を下へ下へと向かせていた。
可愛いなぁ。
またミスしたことで落ち込んでるのか。
いや、恥ずかしかったのかな、もしかして。
……俺のこと、東峰そんなに意識してるのかな。
ちらっと東峰を見たけど、すぐに前に向き直って前髪を触った。
*
帰り道、俺たちはしばらく無言で歩いた。
「先輩、あの」
そのうち、東峰にかけられる声に気付き、振り向く。
「昨日、俺……色々、ごめんなさい」
言葉を詰まらせながら話す彼。
「ごめんなさいって、何で?」
東峰は何やら、うろうろと視線を動かしていた。
なんて言うか、今日の東峰、ずっとこんな感じ。
「だって俺、先輩に迷惑ばっかかけて……。俺、多分先輩の頭とか、叩いたと思うし…」
しょんぼりと肩を落として告げる東峰に、俺は目を数回瞬かせた。
そんなこと、微たも気にしていないというのに。
そもそも俺としては、酒に酔ってあーだこーだ喚いてたりする東峰の方が、好きなんだけどな。
だってそっちの方が、素直で可愛いし。
迷惑だなんて、全然思っていないのに……
どうすれば、それが伝わるかな。
「――あ。東峰」
その時ふっと、頭に思い出した。
「今週末、空いてる?」
首を傾げた東峰が、笑みを浮かべる俺に目を向ける。
彼は確か、最近誕生日を迎えていた。
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