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抹茶とチョコ2

【冬森 郁斗side】 後日。東峰との約束の日がやってきた。 天気は快晴。季節は夏ど真ん中。 今日はバイトも大学もない。 駅に車を止めて、スマホをつつく。 今日は、東峰とデート…ってことに、なるのかな。 スマホの画面に〝どこですか?〟という、東峰からのLINEが届く。 俺は顔を上げて、辺りを軽く見渡した。 すると、ぱっと見中学生か、もしくは高校生に見える人影を見つけた。 東峰ってほんと、幼い見た目してるな。 「こっち」 そんなことを内心思いながら、車の窓を開けて声をかけると、俺に気付いた東峰がパタパタと駆け寄ってきた。 「こ、こんにちはっ」 「あ、うん。入って座って。外暑かったろ」 東峰は俺の隣の助手席に座って、ふぅーと息を吐いていた。 頬っぺたが少し赤い。 外、今日30度越えんだっけ。 「結構待たせた?」 「いえ!全然待ってません!!」 聞くと、にこっと笑って返してきた東峰の表情を見て、そっかと俺は返した。 「どこ行こっか」 ナビをいじりながら言うと、東峰がえ?と振り向く。 「ん?」 「あ、…えと」 口ごもる東峰に、ちょっと笑った。 「俺が全部行くとこ決めてると思ってた?」 東峰は、こくこくと頭を縦に振った。 馬鹿だなぁ。俺はそんなに、きちきち計画とか立てないタイプなのに。 「――今決めよう」 「えっ」 「どこがいい?海?山?」 問うと、東峰はえっと…と言いながら、恐らく頭をぐるぐると働かせていた。 俺としてはどこでもいいんだけどな。東峰と一緒なら。 「えっと……」 「うん」 「じゃあ……海で」 絞りに絞って出した東峰の答えは、どうやら海だったみたい。 「よし。じゃあちょっと遠めのとこ行こう」 「遠め?」 「近くの海、人気あるけど人多いんだ」 言うと、東峰はへぇ…と言って、背もたれに背を預けてシートベルトをした。 今日の彼の格好は、パーカーではなかった。 半袖の無地のシャツ。 だけどやっぱり、どうしても、幼く見えた。 *** 40分ほど運転をして、近くのパーキングエリアに車を停めた。 東峰は寝かけていた目を開けて、車が止まったことに気づき、慌てたようにして俺と一緒に外に出た。 ちょっと休憩…と思って寄ってみただけだったけど、結構店が出てたから、東峰に聞いてみた。 「アイス、食べる?」 「えっ?」 「バニラ300円。安い」 東峰は顔を上げて俺を見つめ、目を数回瞬かせた。 * その後、東峰は抹茶味を、俺はチョコ味のアイスを買った。 「東峰、抹茶好きなのな」 珍しいといった顔で見ると、東峰は何故か可笑しそうに笑っていた。 「先輩、絶対甘党だ」 「え?」 「チョコって… 俺、甘過ぎるのはちょっと苦手で」 「え!チョコ苦手ってこと?マジで?」 驚いたように聞くと、東峰はまた、可笑しそうに俺を見て笑った。 ……何でだ? 「先輩って、見た目と全然違うから、なんか、あははっ」 「なんだよーそれ」 楽しそうに笑う東峰に、俺も軽く笑って返す。 「先輩がチョコ味かぁ…。でも、全然違うけど、合ってるかも」 「はぁ?」 よく分からないことを言う東峰に、俺はまた口端を上げて笑った。 「甘いの好きなんだ、…先輩」 ふわり、微笑みながら呟いた東峰に、胸がどきりとした。 たったそれだけの言葉なのに、何でだろう。 いまの発言にどきっとする要素なんて、ひとつもなかったはずなのに。 それなのに、思わず胸が弾んだのは、それはもしかしたら――そばにいる東峰が、珍しく自然と笑っているから、なのかな。 こんなに笑ってる彼を見るのは、俺は多分、初めてだったから。 「ちょっと食べてみる?」 東峰に、食べていたチョコ味のアイスを勧める。 東峰は一瞬躊躇いつつも、アイスの端っこに口をつけて、ほんの少しだけかじって食べた。 「美味い?」 聞くと、んー…と言って言葉を濁す彼。 そんなに甘いの苦手なのかな。 そう思っていると、東峰にずいっと、彼が持っていた抹茶味のアイスを目の前に差し出された。 「先輩も、…食べる?」 「え?」 そのとき思った。 なんかいま俺らって、 「じゃあ…ちょっとだけ」 「…うん」 多分、周りの人たちに変な噂立てられてんだろうなぁ…って。 「美味しい?」 「うん。美味しい」 抹茶味のアイスをひと口かじって答えると、東峰は満面の笑みを浮かべて、俺の方へと振り向いた。 「でしょ!」 そのときの、子どもみたいな無邪気な彼の笑顔が、無防備で、自信満々で。 なんだかとっても可笑しくて、同時に愛らしいと思ってしまった。 東峰が作ったわけじゃないだろうって、ツッコミたかったけど、そういうの望んでるやつっぽくないし、東峰多分、純粋に言ってんだろうなぁ…て。 そう思ったら、何だかやっぱり、可愛いくてたまらなかった。 ……こんなふうにも笑うのか。 彼はきっと、こんな気持ちで見ている俺のことなんて、知る由もないのだろう。 (やっぱり東峰って、天然たらしだ……) 笑顔を振りまく彼を見て、俺は心の中で密かに思うのだった。

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