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「美作…あの…」
抱きついた後に我に返ったのか戸惑ったように熾くんが呟いた。考えるより先に言葉が出る
「…泣いていいよ」
「え?」
「泣いたら少しは楽になるんじゃない?すごく悲しかったでしょ?じゃないとそんな自分を軽く扱うことしないんじゃないかな?」
悲しかったから…変な人についてって自らを汚そうとしたんでしょ?
熾くんの俺より小さな…けどちゃんと男だってわかるようなしっかりした背中を撫でながらできるだけ優しく声をかける。
「本当に好きだったんでしょ?信じてたんでしょ?」
「…好きだった…信じてた…」
知ってるよ。ずっと君だけを見てきたんだから…真っ直ぐ彼だけを見つめる君を…
「彼は本当に君を大切にしてたからね。俺が近付くだけで前に立ち塞がってさ。俺は普通に熾くんと仲良くなりたかっただけなのにゴミムシ見るみたいな形相で…うん。ある意味俺にとっても彼は特別だったよ」
自分の理想に作り上げるために周りを徹底的に排除してたなんて口が裂けても言わないけど…それでもあいつは熾くんにとっては誰よりも大切な相手だった。
「…ゴミムシって…」
「ねぇ?失礼しちゃうよねぇ。こんな美人な俺に向かってさ。…ねぇ熾くん。頑張んなくていいよ。ここは俺しかいないんだし取り繕わなくたっていい。君は天使じゃないよ。天使熾くんなんだから」
とうとう涙が溢れたみたいだ。それにホッとした。沢山泣いてね…少しでも気持ちが楽になるように。
「本当に好きだったっ…彼だけは違うって…信じてた…僕はっ…僕は…天使じゃないっ!人間だから感情だってあるんだよ…だけど…僕は…」
…黙ってずっと彼の背中を撫でていた。その熾くんの体がずんと重くなった。泣き疲れて眠ってしまったようだ。目がはれちゃいそう…そう思って冷やすものを準備しようとするんだけど熾くんが俺の服を強く掴んでた。安心してるのかなって思うと嬉しくてそのまま寝顔をみつめてた。いつの間にか外も暗くなっていた。
そっと髪に触れた瞬間ゆっくりと瞼があいた。眠り姫かな?
「うわっ!あ…美作…」
ううん。熾くんは熾くんだ。天使でも姫でもない天使熾くんなんだ。俺が好きになった唯一の人…
「うん。おはよぉ。起きたの?まだ寝ててよかったのに。」
「起きてたの?」
「起きてたよ。天使ちゃんが俺の事なかなか離してくんなくてさ。ずっと寝顔見てたよ」
俺の言葉を聞いて慌てたように熾くんは自分の手元を見た。そこにはしわしわのぐちゃぐちゃになった俺のTシャツ。
「あ!?ごめっ!」
「ふふっ。いいよ!可愛い寝顔を堪能できたし。最高の時間だったよ!大丈夫?沢山泣いたから喉渇いてるでしょ?お水持ってくるね」
そう言って熾くんの頭を撫でて起き上がった。
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