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第2話

とにかく、子種を頂くには力尽くでやるしかないというのが僕の答えだ。 しかし、旦那様は魔法がとても得意だ。 僕なんかの力と魔力では到底及ばない。 ただ一つ、相手の魔力ごと封じる緊縛魔法がある。 でもこの魔法は僕は20分くらいしか使えない。 そのあと、空を飛んで逃げる魔力の事を考えるとせいぜい10分。 10分で子種を貰えるのだろうか? 僕のことをペットとか動物とか、そういう認識でいる人から搾り取れるだろうか… いささか不安ではある。 でも、そうでもしなきゃ、僕は家族を得られない。 僕にもっと魔力があれば、と何度となく恨んだ自分の体質を恨む。 逃げる方法だって、僕に高度魔法が使えれば、転移だって出来たのに。 ちまちま空を飛ぶしかないんだ。 それも、飛べて10分程度。 だから僕は、お屋敷から10分の所に仮の拠点を作ることにした。 そこで一晩寝て、魔力を回復した後に本格的に逃げる。 まあ、旦那様が追いかけてくるとは思えないけれど。 念には念を、だ。 拠点を2週間かけて作り、出来上がった翌日の夜に決行することにした。 その日も、帰ってきた旦那様からは別のΩの香りがした。 「旦那様は本当にモテますね」 今日で最後だと思ったら、嫉妬のような言葉もするりと出てきた。 初めてそんな不満を言った僕に、旦那様は驚いた顔をした。 「リナリア、他のΩの匂いが分かるのか!? い、いや、これは決してやましいことなどなくて…」 「旦那様にαやΩの香りがわかるように、僕にだってわかりますよ」 力なく僕が言うと、旦那様が僕を抱きしめる。 「すまない、リナリア。 私としたことが、配慮に欠けていた。 どうか嫌わないでおくれ」 「嫌いになんて…」 なるわけないのに。 なれたらきっと、もっと簡単に旦那様を諦められたはずだ。 「その可愛い口から"嫌い"と言う単語が出るだけで、全身の血が凍りつきそうだ」 旦那様は僕の頭に頬擦りをしている。 そんな彼を宥めて夕食を取る。 「旦那様、お願いがあります」 飲んでいたお茶をテーブルに置き、僕が改まって言うと 「なんだい?リナリアの願いはなんでも叶えるよ」 と旦那様は笑みを深めた。 「今晩、湯浴みをしたら僕のお部屋に来ていただけませんか?」 「湯浴みの後に…?」 と、旦那様は不思議そうな顔をしている。 今までそんなお願いをしたことがなかったから、(いぶか)しまれているかもしれない。 「だめ…、ですか?もう少しお話がしたくて」 と僕が言うと 「ダメじゃない!ダメじゃないんだが… 精神を統一するからすこし遅くなるかもしれない」 と旦那様が言った。 「待ちます、何時(なんじ)でも」 「…、分かった。そしたらもうお茶の時間は終わりにしようか」 そうして、僕たちはそれぞれお風呂に入った。 旦那様も時間がかかると言っていたし、僕も体の手入れをしよう。 すこしでも旦那様が射精しやすいように、気持ちが高まりやすいようにしなきゃ。 ケアも万全にして、旦那様を待っていると控えめなノックの音がした。 ドアを開けるとすこし気まずそうな顔をした旦那様がいる。 「どうぞ。旦那様、失礼を申し上げるのですが、ベッドに座っていただけないですか?」 「いや、全く失礼ではないが…、ベッド!?」 「はい。その、リラックスした方が話しやすいので…」 ちょっと無理があるかと思ったけれど、旦那様はベッドに座ってくださった。 「湯浴みの後のリナリアに会うことがあまりないけれど、いつもこんなに良い匂いなのかい?」 「良い匂いがしますか?」 「あ、ああ、とても。 Ωというのはその、すごいな」 「ふふ」 と笑った後に、旦那様に「あの、後ろで手を組んでいただけませんか?」と訊く。 「後ろで手を?」と怪しみつつも、旦那様は言うことを聞いてくださる。 こんな純粋な方を騙すなんて、心が痛い。 そんな旦那様に緊縛の魔法をかけた。 「えっ!?なに!?どうしたんだい、リナリア? 魔法を解いてくれないか?」 驚いた旦那様が僕を凝視する。 「申し訳ございません。 僕…、旦那様とお別れする前に欲しいものがあるんです」 「え?は??お別れ? 何を言っているんだい、リナリア? 欲しいものなんて言ってくれればいくらでもあげるよ、だからこれを…」 こんなことをしているのに優しく諭してくれる旦那様に僕は決意が揺らぎそうになる。 旦那様には申し訳ないけれど、言葉も奪ってしまおう。 ただ、それに魔法を使うとさらに魔力が減ってしまうので、「ごめんなさい」と言いながら旦那様の口にハンカチを噛ませた。 「んん!?んー!!!ん!!」 旦那様が目を見開いて何かを言っている。 でも、時間がない。 早く、子種を頂いて逃げないと。 湯浴みの後なのでお互いバスローブを着ている。 脱がす手間が省けてよかった。 「僕、旦那様の子種が欲しいんです。 旦那様とのお子が欲しいんです。 でも、もし子供ができても、旦那様は責任なんて持たなくていいんです。 認知もしなくて良い。 ただ、旦那様と血が繋がった家族が欲しい。 旦那様は嫌かもしれませんけれど、すぐに済ませるので我慢してくださいね」 僕は彼の腰紐を緩める。 αらしい大きな陰茎が現れる。 当たり前だけど、(きざ)していない。 僕はドキドキしながらそこに口付ける。 旦那様のモノだと思うと、全く嫌悪感がないどころか、舐め尽くしてしまえる。 必死にぺろぺろと舐めていると、固く立ち上がってくれた。 「あっ、立った」 僕は嬉しくなって旦那様を見上げる。 彼は血走った目で僕を見下ろしていた。 あ…、怒ってる。 当たり前だ。 この行為を嬉しいと思っているのは僕だけなんだから。 「ごめんなさい、旦那様。 すこしだけ我慢してください。 目を閉じて、好きな方のことを思い浮かべててください。 僕なんか似ても似つかないと思いますけど、なるべく声も我慢しますから」 僕は悲しくなって涙目で謝りつつも、もう止まるわけには行かないので、あぐらをかいて座っている彼の上に乗る。 対面座位の状態で彼を受け入れた。 「あっ…、ああっ…、大きい」 ヒートのときと違い、完全に意識があるのでより旦那様の熱さを感じる。 足が震えてうまく出し入れができない。 「旦那様ぁ、気持ちよくて動けないよぉ」 「んん!んんん!!!」とさっきよりも激しく何かを言っている旦那様。 やっぱりお顔は怒っていて、悲しくなった。 「ごめんなさい、嫌ですよね。 中に出してくださったらすぐ終わるので、我慢してください。 僕、旦那様と一緒に過ごせて本当に幸せでした」 旦那様のお口にキスをしたいけれど、僕の身長では届かないので、首筋に吸い付く。 跡を残したらお嫌だろうから、本当に軽く唇を当てる程度だけど。 そうしていると、中で熱が弾ける感覚がした。 中に出てる…、旦那様の子種が。 「あっ…、熱い…。 んふっ、でも、これで僕は旦那様のお子を孕めますね」 うっとりと彼を見上げると、彼は驚いた顔をした後にまた激しく首を振った。 僕との子なんて作りたくないと言わんばかりに。 それでも、中の旦那様はまた固くなっていた。 気持ち的には嫌なんだろうけれど、αゆえにΩの中にいたら自然に立ち上がってしまうのだろう。 可哀想な旦那様… でも、僕は止まらなかった。 腰を揺すって2回目の子種もいただく。 今度はうまく動けたからか、すぐに中に注いで頂いた。 「ああ…、熱くて気持ちいいです。 僕なんかに勃起()って、射精()してくださって、ありがとうございます。 もう僕の魔法が解けちゃう時間なので、行きますね」 僕は旦那様の上から退いた。 はずみで中のものが太ももを伝って出てくる。 「あ…、やだぁ!だめ!出ちゃダメなのに」 僕は半泣きで押し戻そうと指で掬って中に入れようとする。 けれど、それでも溢れ出てしまう。 その様子を旦那様が目を見開いて見ていた。 僕は手近にあった張り型を無理やりお尻に突っ込む。 これでフタになるはず。 旦那様はまだ、僕の下半身を見ていた。 「旦那様、ごめんなさい。 今まで本当にありがとうございました。 僕、旦那様に捨てられたらきっと娼館でしか稼げないと思うんです。 だから、そんな好きでもない人の子を孕んでしまう前に、旦那様の子を産みたかったんです。 どうか、お幸せに。お元気で」 そう言い捨てると、僕は窓から飛ぶ。 このまま月が出ている方に向かえば、僕の仮の拠点に着くはずだ。 チラリと砂時計を見る。 4/5が下に落ちていた。 あと1〜2分で旦那様の魔法が解けてしまう。 早く拠点に行かないと!! なんとか気力を振り絞り、魔力ギリギリで拠点に着く。 拠点と言っても木の板や布を寄せ集めたプレハブ以下のテント崩れだ。 雨が降ったり突風が吹いたら一瞬で終わる。 今夜が静かな月夜で良かった。

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