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金、それだけ 2

丘珠空港から小型旅客機に乗り数十分飛んだ先の島がこれから俺が働く場所だ。 札幌からの飛行機は週に2回しかフライトしていない。 船で行くとなるとまずは港のある町へ行かなければならない。 そうなると、乗船自体は2時間半ほどらしいが、トータルすれば9時間かかってしまうという僻地も僻地だ。 なぜ俺が北の地最大の歓楽街がある札幌からこんな田舎の離島に行くのか。  理由は二つ。  離島応援ナースという派遣制度の給料の良さ。  疑わしいほどの金額に今日まで何度も確認をしたがどうやら嘘ではないようだった。  それから憎っくきあのクソ医者が、この島に出張医として出入りしている事をインスタで知ったからだ。 あっちが#離島医療ならこっちは#打倒クソ野郎だバカ野郎。 ちなみに奴が結婚した事も俺はインスタで知った。 本当に意味がわからない。 俺は未だに別れの言葉すら貰っていない。 その事を知った俺は数日後には派遣バンクに連絡し、すみやかに退職の旨を師長へと告げていた。 とても残念がられたが札幌の中規模病院と派遣先の給料ははっきり言って雲泥の差である。 今は一万でも多く返済に回し、綺麗な身になる事、生活を立て直す事が最優先だと思った。 そして奴から百万ほど巻き上げる。 これは絶対にだ。 その為に一応ボクシンググローブも処分せずに持って来ている。 事前打ち合わせで、一通りの家具は寮に備え付けだと聞いていた。 リュック一つで島に向かう様は、フリーランスの旅人にでも見えたのではないか。 いや、そんなかっこいいものではないな。 防寒のジャンパーと上下セットのスウェットにお気に入りのナイキのスニーカー。 少し前までは服も靴も好きで不要なほど持っていたが、全てリサイクルショップに持って行った。 二度ほどしか履いてなかったスタンスミスは廃盤で、思いがけず高額になった。 とにかく売れるものは売りに出して交通費と一ヶ月分の食費ほどの現金は持っている。 通帳には絶対に使ってはいけない引き落とし分、クレジットカードは滞納はしていないが上限越えだし、できれば二度と使いたくない。 コンビニでピ、スーパーでピ、課金にシュ、のお気楽な生活とは金輪際おさらばするのだ。 あ、交通費はすぐに戻ってくるらしい。 大変有難い。 手放してから気付いたが人間は、本当に必要なものなどあまり多くないのではないかと思う。 春の海は荒れやすいという事をネットで知った。 けれど、空から見えた太陽が反射している波は穏やかに見えた。 小型機での飛行はあまりに地上が近く、島の縁の海の透明度が高く美しく、何も始まっていないのに俺は来てよかったかもと思う始末だった。 切迫詰まり気味なのは充分わかってはいるが、基本的には呑気な性分なのである。

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