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第2話 田中、スキルおかしくね?

 俺はラノベや異世界アニメの類いはあまり触れてきていない。だがそれでも、子供の時分に触れたものは覚えている。  これから行く世界は、どうやらそれらの知識が役立つようだ。 『言っておくけれど、今時点のスキルは必ずしもチートじゃない。君がこれまで生きてきた中で培った経験なんかが反映されているからね。あと、基本的に【多言語理解】のスキルは、転生者にはつけてる。ないとコミュニケーション無理だから』 「ありがとうございます」  そのままの意味でいくと、どうやらオート通訳がついているようだ。会話だけでなく、読み書きも対応していると有り難い。 『じゃあ、ステータスオープンって唱えて』 「ステータスオープン」  言われたとおりにすると、目の前に半透明なウインドウが出てくる。名前、年齢、種族の他にステータス表示がある。体力はそこそこ。俊敏性はあまり高くない。だが、魔力値というものが飛び抜けて多い気がする。 『魔法職向けだね』 「この世界で魔法など使った覚えはありませんが」 『魂の資質とかにもよるよ』  どうやら俺の魂は魔法使い向けだったらしいが、この世界では意味がなかった。今後活かすとしよう。 『さーて、スキルは……げぇぇ!』 「?」  スキル欄を見て、神様は目を丸くして拒絶反応を示した。案外失礼なものだ。 【苦痛耐性Lv9】【睡眠貯蓄Lv2】【疲労貯蓄Lv2】【健康Lv1】【効率摂取Lv2】【鑑定Lv3】 【肉体強化Lv1】【回復強化Lv1】【多言語理解】【アイテムボックス(無限)】  スキルと明示されている部分には、このような情報が上がっている。これが俺の人生における経験から弾き出されたのかと思うと、納得もできる。 『社畜の黒き星の下に生まれてきたの!』 「過労死するくらいには立派な社畜でしたからね」 『笑えない! 笑えないからね!』  慌てふためく神様がエグエグ泣きながら『これ、魂回復するかなぁ?』と不安な事を言う。それが目的の転生ではないのだろうか。 「解説を見るには、どうしたらいいのでしょうか?」 『うん。文字の所をタップすると出るよ』  タッチパネル式か。これを仕事に使えないものか。  何にしてもまず己を知らなければ過酷そうな異世界で生き残る事ができない。俺はまず予想がつきそうな【苦痛耐性】から調べた。 【苦痛耐性Lv9】 物理的・精神的苦痛を受けても耐えられる。 過酷な環境下、劣悪環境でもその影響を受ける事なく生き残る可能性が高い。  上司の嫌味、罵倒、押しつけに耐え、時に物が飛び、髪を掴まれ、突き飛ばされる。それらに耐えた結果だろう。喜ばしくはないが、何かしらの結果として出てきた事は感慨深い気がする。 【睡眠貯蓄Lv2】(NEW) 予め指定した時間寝だめする事で貯蓄できる。 貯蓄した睡眠時間は後々に使用可能。 他人に睡眠時間を譲渡する事ができる。 「……神様、これはどのような事でしょう?」  説明を読んでも上手く理解が及ばない。何となく言いたい事は分からないではないのだが。 『ようは寝だめした時間、後で寝られない状況下での眠気や疲労を相殺してくれるんだね。他の人に使うと、その人の眠気や疲れを相殺してくれる。二時間使えば二時間眠気飛ぶ』 「いいですね。生前に欲しかったです」  睡眠不足からくる不調は侮れない。目のかすみ、頭痛、突然の意識障害。気付いたら寝落ちしてタイムリミット十分前などよくあった。  生前も貴重な休みは寝倒していた。あの時間をこのスキルで貯蓄できていたら……悔やまれる。 『ただし、気をつけた方がいいよ。スキルを使用して二時間設定して寝たら、何があっても二時間起きない。その間に危機的状況に陥っても、例え殺されても目が覚めないから』 「安全な場所で、安定して長い睡眠が確保できるシーンでなければ使えないのですね」  休日に寝倒そう。あれが俺にとって唯一幸せな時間だった。  睡眠貯蓄については理解できた。そうなるともう一つ、気になるスキルがある。 【疲労貯蓄Lv2】(NEW) 疲労をポイント化して貯蓄する事ができる。 上限あり(レベルアップで上限値上昇) 他人に付与する事ができる。  これは謎すぎる。疲労を貯蓄して、どうするというのだ? 『それねー。ようは疲労の後払い機能だね』 「現在の疲れをこのスキルでポイント化し、後日ゆっくり出来る時に少しずつ下ろして休息し、消化すると?」 『簡単に言うとそうだね』  これは……便利ではなかろうか。繁忙期、絶対に倒れる事が許されない時にこれを使えば疲れ知らずで仕事が続けられる。溜まったポイントは好きなタイミングで消化していけばいいのだろう。 「……他人に付与とは?」 『そのまま。疲労貯蓄〇〇pt付与って、対象を目視か指で指定すれば、相手は付与されたポイント分疲労する。嫌なデバフ効果だね』 「それはいいですね」  自分が溜めた疲労を自分で消費せず、他人に押しつけてしまえるということか。魔物にも有効だろうか? 「ちなみに、上限を超えたらどうなりますか?」 『過労死する』  ……上限を上回らないように気をつけよう。生前はしくじったが、こちらでは数字として視認できる。これもまた、便利と言えば便利なのかもしれない。 『ちなみに、100ptを相手に付与すると鬱状態に、500pt付与するともっと重い心身の疾患、1000pt付与すると過労死させられるよ』 「エグいな」  ちなみに今の段階でMAX1000ptだ。上限まで溜めれば攻撃として有効手段にもなりそうだが、検証は必要だろう。そもそもMAX近くまで疲労を溜める事もリスクがある。うっかりすると自分の死が待っている。  流石に二度目の過労死は人としてどうかと思う。結果としては仕方がないが、望む状況ではないのだし。 「他は……なんとなく想像はつくな」 【健康】病気になりにくく、健康な肉体と精神を保てる。 【効率摂取】少量の食料などから効率的に栄養、エネルギーを摂取できる。 【鑑定】物、人物の鑑定ができる。 【多言語理解】この世界に存在する全ての言語が習得状態になる。 【肉体強化】魔力を使い、肉体を強化できる。 【回復強化】怪我、病気、疲労の快復率が大幅に上がる。 【アイテムボックス】容量無限。入れた物の時間経過を止める(生物は収納できない)  何気に健康がいい。病気は一番非効率的だ。どんな状況下でも健康が保たれるのは、何気に一番有り難い。  効率摂取は……おそらく、最低限の食事しかしていなかったからだろうな。この体は頑張って、そこから栄養を搾り取って生きてきたのか。 「【鑑定】と【アイテムボックス】は何故?」 『僕からの贈り物。これ二つあるとサバイバルでも日常でも役立つんだ。生存率を上げるのにね』 「なるほど」  神様からの心遣いのようだ。内容を見ると随分といい。害のある物、人物をある程度見分けられるだけでも危機回避は出来る。  海外では金品を持っているだけで命の危険がある。アイテムボックスがあれば手ぶらでいられるし、多少動きやすいだろう。  肉体強化は俊敏性や筋力、体力を一時的に上げられるようだ。上げたい数値の分だけ魔力を消費し、数十分で効力を失う。ブーストをかける時にいいだろう。  回復強化もいい。人間、生きていれば怪我をしたり、病気になる事はある。健康スキルがあっても回避できない病などもありえる。そんな時にこのスキルがあれば回復が早まるのだ。  こうして見ると、俺の人生もなにかしらの意味があったように思う。身についたスキルはどれも宝物のように思えて、俺は誇らしい気分になった。

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