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第8話

十二月の定例会議で納期繰り上げの件が議題に挙がった。一課の課長として顛末の詳細を報告し、例の取引先は今後要注意として全ての部署に共有した。それで終わるはずだった。 「此枝課長。率直な意見を伺いたいのですが、眞島君は一課には時期尚早だったとは思いませんか」 部長の言葉に耳を疑った。 眞島の努力が見えていないのか。なぜ全社の協力が得られたと思ってる。眞島が掛け合い拒否された工場からの受入を実現させたからだ。 「思いません。先程も述べたように今回は取引先が悪質でした。眞島は巻き添えを喰らったに過ぎません」 「状況はそうかもしれないが、私としては有望だからこそじっくり育てたい。今回のことでそう考えたんですよ」 「……研修でも行いますか?」 「そうだね……。一課が最も多忙かつ重要な部署なのは周知の通りです。いったん通例通り三課辺りで、もう一度基礎を叩き込んでから一課に異動してもらった方が今後の彼の為になると思いませんか」 ──部長の言い分に頭から反対する理由が見つけられなかった。 今更なんだ、そんなの入社前に考える話だろ! これは感情だ、理由にならない。それに……今の俺は私情を挟んでしまう恐れがある。その考えが捨て切れない。自分が育てると、断言するほどの自信がなかった。 「ですが、彼は既に一課でもやっていけるだけの──」 反対材料のないまま口を開くと部長に遮られた。 「私は決してネガティブな意味で異動を勧めているんじゃない。彼に期待しているのは此枝課長、あなただけではないんですよ」 もうこれは決定事項なんだろう。この程度の異動であれば役員会議を開くまでもない、部長の権限だけで十分だ。俺にはそれ以上何も言えなかった。眞島を──守れなかった。 ──そして、年明けから眞島は三課配属になった。唐突だが次期新卒入社時までに課に慣れさせておく、という一応の配慮によるものだった。 「此枝課長、大変お世話になりました。次に戻る時は一課に相応しい実力をつけてきます」 そう言って去っていった眞島は、ふてぶてしいくらい堂々としていた。一課復帰が当然と思ってやがる。いっそ小気味良い。 去るといっても俺と直接的な接点が無くなっただけで、同じフロアのすぐ近くの島に居る。三課に行こうが二課に上がろうが、いつも眞島が大活躍していることくらい嫌でも目に入って来た。一課内でも眞島さえ居ればと、先輩であるはずの者たちが妬みを通り越して欲しがる始末だった。

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