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第5話 酔いどれ“恋人契約”成立
俺のマンションに着くと、陸は少し緊張した様子でキョロキョロしている。
「座って。お茶入れるから」
ソファーに座らせて、キッチンに向かう。後ろから陸の視線を感じる。
「……カイト」
振り返ると、陸が不安そうな顔でこちらを見てた。
「さっき“契約”って言ったけど……何すればいいんだよ」
俺は笑って、陸の隣に座る。
「そんな難しく考えなくていいって。俺が疲れた時に、お前がそばにいてくれるだけ」
そっと陸の手を握る。今度は震えてない。
「……それだけ?」
「それだけ。でも、時々こんなこともするかもしれない」
軽く陸の頬に触れると、彼は少し身を震わせた。
「……ちょ、ドキドキするから離れろって……」
正直な反応に、思わず笑みがこぼれた。
「そう?じゃあ、もうちょっと慣れてもらおうかな」
顔を近づけて、今度はもっと近く。陸の唇まで数センチの距離。
「……え、カイト……?」
陸が戸惑ったように俺を見つめる。でも逃げようとはしない。
「契約にはこういうのも含まれてるから」
そう言って、俺は陸の唇に自分の唇を押し付けた。
「んっ……!」
陸は慣れてないのがすぐ分かった。タイミングがずれてて、息の仕方もぎこちない。
俺がちょっと舌を入れようとすると、陸は慌てたように身を引こうとする。
「ちょ、ちょっとまて……」
「何?」
「いきなり過ぎるだろ……」
顔を赤くしながらも、完全に拒否してるわけじゃない。ただ戸惑ってるだけみたいだ。
「じゃあもう一回」
今度はもう少しゆっくり。陸は「んっ」って小さく声を漏らしながらも、今度は少し応えてくる。
でも息継ぎのタイミングが分からなくて、途中で苦しそうに俺の肩を軽く叩く。
「っぷ……はぁ……」
離れた時、陸は少し息を荒げながら俺を見上げてた。唇が少し腫れてて、頬も赤い。
「ふっ……陸って、キスあんまり上手くないな」
からかうように言うと、陸はむっとした顔になる。
「うるせぇ……そんなにやったことないんだよ」
「そんなに、ってことは少しはあんのか」
「……まあ、一応」
素直に答える陸に、なぜかちょっとイラッとした。
「でも俺の方が上手い」
「……知らねぇよ、そんなの」
そう言いながらも、陸は視線を逸らす。照れてるのがバレバレだ。
「また教えてやるから、覚えとけよ」
「は? 俺のほうが年上だってば。誰が教わるって言った」
口では反抗するくせに、逃げようとはしないんだよな、こいつ。
「そういえば、陸は彼女側でいいんだよな?」
何気なく言った俺の言葉に、陸は戸惑ったような顔をする。
「彼女側って……」
「陸はネコだろ?」
「……っ、カイトお前さ……」
陸の頬がさらに赤くなる。酒も手伝って、だんだん抵抗力が弱くなってきてるみたいだ。
「合ってんなら、決まりな。陸は俺の彼女」
そう宣言すると、陸は何も言えなくなった。
「もう遅いし、今日は泊まってけよ」
俺は立ち上がって、陸の手を引く。
「え、でも……」
「契約だからさ。俺のそばにいるって約束したろ?」
陸は困ったような顔をしながらも、素直について来る。
寝室に入ると、陸は急に緊張したみたいで、立ったまま固まってる。
「どうした?」
「……いや、なんか……実感湧いてきた」
「何の?」
「こうやって、知らない人の家に泊まるって……」
そう言いながら、チラッとベッドを見る陸。
「おい、知らない人じゃないだろ。俺はカイト、お前は陸。もう契約恋人同士じゃん」
そう言って、陸の肩を軽く押してベッドに座らせる。
「……緊張する」
「大丈夫だって」
俺は陸の隣に座って、そっと肩を抱き寄せた。
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