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第10話 嫉妬の芽生え

俺がソファーに座ると、カイトは当然のように膝に腰掛けてくる。 「ちょっと待て、そこでじっとしてろ」 命令するように言いながら、勝手に俺の肩越しにスマホを覗き込む。 「なにしてんだよ」 「俺の可愛い彼女の行動チェック」 満足そうに笑いながらそう返すカイト。 彼女って……未だに慣れない。でも否定する気にもなれないのが、自分でも不思議だった。 そんなことを考えていると、スマホに着信が入った。後輩からだ。 この後輩、最近やけに頻繁に電話をかけてきたり、メッセージを送ってきたりする。まあ、仕事の相談だろう。 とりあえず出ようと通話ボタンに指を向けた瞬間、カイトにスマホを取り上げられた。 「最近、こいつと絡む頻度多くない?」 「あ……ちょっと、スマホ返せよ」 カイトの表情が急に真剣になる。こんな顔、初めて見た。 「こいつに狙われてるんじゃないの?」 「そんなわけないだろ、男同士なのに」 「分かってないなぁ。お前モテるんだから、もっと気をつけた方がいいって」 モテるって……カイトに言われても説得力がない。 「それは、カイトには言われたくない」 ホストのくせに何を言っているんだ。 「俺のことはいいんだよ。お前の心配をしてるんだから」 こいつ、本当に自分のことは棚に上げて……。 でも、その時のカイトの表情は本気だった。まるで本当の恋人が嫉妬してるみたいに。 「はぁ? お前だって、客と同伴とかアフターとか、デートまでしてるじゃん」 つい、そんな言葉が出てしまった。自分でも驚くほど、嫌味っぽい口調になっていた。 「それは仕事だから」 カイトはあっさりと答えたけれど、俺の胸の奥はざわざわと落ち着かなかった。 仕事、か。確かにそうなんだろうけれど、カイトは本物の恋人じゃないのに、なぜかモヤモヤする。 これって……もしかして嫉妬? そんなバカな。俺がカイトに嫉妬するなんて。 でも、カイトが他の人とデートしているって聞くと、胸の奥がざわざわする。 「陸、何ぼーっとしてんの?」 カイトの声で現実に戻る。気づくと、カイトが俺の顔を覗き込んでいた。 「別に……何でもない」 「嘘つけ。顔に出てるよ」 カイトは俺の頬に手を当てて、じっと見つめる。その距離の近さに、心臓が跳ねる。 「もしかして、俺が他の女と仕事してることが気になってる?」 図星を突かれて、思わず目を逸らす。 「……そんなわけないだろ」 「あー、嫉妬してるんだ。可愛い」 からかうような口調だけど、カイトの目は優しかった。 「してないって言ってるだろ」 「でも嫌なんだろ? 俺が他の人といるの」 否定しようとしたけれど、言葉が出てこない。 確かに嫌だった。カイトが俺以外の人と親しくしているのを想像するだけで、胸が苦しくなる。 「……べつに」 精一杯の強がりだった。 「素直じゃないなー」 カイトは苦笑いしながら、俺の頭を軽く撫でる。その仕草が妙に優しくて、また心臓が跳ねた。 「でもさ、陸が俺のこと気にしてくれるの、嬉しいよ」 「気にしてない」 「してるって。ちゃんと分かってるから」 カイトがそう言って微笑むと、俺の胸がキュンとした。 「俺だって、陸が他の奴に取られるのは嫌だからな」 「取られるって……」 「だから、あの後輩とは距離置けよ」 「仕事の後輩なのに、そんなこと……」 「仕事でも何でも関係ない。お前は俺のものなんだから」 そう言うカイトの顔は、いつもの俺様な表情じゃなく、なんだか切なそうだった。 俺は自分の気持ちに戸惑いながら、カイトの横顔を見つめていた。 知らないうちに、この俺様ホストに本当に心を奪われ始めているのかもしれない。 でも、カイトも俺のことを……本当に大切に思ってくれてるのかもしれない。 その可能性を考えると、胸が温かくなった。

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