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第13話 惚れたら終わり

翌朝、目が覚めると昨夜の記憶が曖昧だった。 確か後輩の村上と飲んでいて……それから? 頭が重い。二日酔いというよりも、何か大切なことを忘れているような感覚だった。 「おはよう、陸」 隣でカイトが満足そうに微笑んでいる。いつもより優しい表情をしている。 髪が少し寝癖でくしゃくしゃになっているのに、なぜかいつもより魅力的に見えた。 「なんで……カイトがここに?」 「昨日のこと覚えてるか?」 カイトが俺の頬にそっと手を当てる。その温かさに、心臓が跳ねた。 「えーと……村上と飲んでて、家まで……」 記憶の断片が蘇ってくる。 村上の不自然な笑顔、ふらつく足取り、そしてカイトが現れたこと……。 「あ……」 そうだ。昨夜、カイトに抱きしめられて、好きだと言われて。俺も気持ちを伝えたんだった。 「思い出した?」 カイトが俺の額に軽くキスをする。 「俺、カイトになんて言った?」 「“嫌いじゃない”って言ったよ。そこは“大好き“だろ、とは思うけど」 その表情を見ていると、昨夜の記憶がより鮮明になってくる。 カイトの心配そうな声、必死に抱きしめられた感触……。 「カイトのあれって本気だったのか?」 「本気だよ。今までこんなに人を好きになったことない」 俺だって、あの時の気持ちは確かに本物だった。酔っていても、嘘は言えない。 「なあ、陸。いつかはちゃんと“好き”って言えよな」 そう囁くカイトに抱きしめられて、俺は安堵のため息をついた。 カイトの胸に顔を埋めると、心地良い香りがして、自然と力が抜けていく。 「でも村上のこと、申し訳ないな……」 「は?なんで?」 「あいつ、俺のこと……」 「俺がいるのに他の男のことなんて考えるな」 ああ、やっぱり。カイトの独占欲はこれから更に激しくなりそうな予感がした。 「なあ、カイトは独占欲って言葉、知ってる?」 「当たり前だろ、知ってるよ。愛情表現だろ?」 「それ、ちょっと違うと思うけど……」 でも、なぜか嫌な気分じゃなかった。 むしろ、カイトに大切にされている実感が湧いてきて、心の奥が温かくなる。 「陸」 カイトが俺の名前を呼ぶ声が、いつもより甘く聞こえる。 「今日は一日俺と過ごそう」 「ああ、今日は土曜日だっけ……まあ、いいけど」 「やった」 カイトが嬉しそうに俺の手を取って、指を絡める。子供みたいに喜ぶ姿が可愛い。 「朝飯作るから、何が食べたい?」 そう言って微笑むカイトの横顔に、胸がきゅんとした。 「カイトが作りたいもので」 「優しいな、陸は」 カイトが嬉しそうにキッチンに向かう後ろ姿を見ながら、俺は小さく笑った。 これからどんな毎日が待っているのか分からないけれど、きっと退屈はしないだろう。 それに……こんなに愛されるのも、悪くない。 でも一つだけ心配なことがある。 カイトの独占欲、本当に大丈夫かな……。

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