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第18話 加虐心と愛おしさ
Side カイト
陸の部屋のドアに背を預けたまま、力が抜けてずるずると座り込んだ。
「なんなんだよ……」
陸のあの目……すごく睨んでたよな、俺のこと。
なのに、いきなりあんなふうに拒まれる理由が、どうしてもわからない。
おかしいだろ。怒ってるのは本来、俺の方のはずなのに。
……何かあったのか。
でも陸は、「離せ」って言いながらも、思い切り突き放したりはしなかった。
本当は離れる気なんてないくせに。だから表面上だけの拒絶に見えるんだよね。
そしてこの俺が、それを見逃すはずないじゃん。
ホストを侮ったらダメだよ。駆け引き上手なんだから。
俺はポケットからキーケースを取り出して、合鍵を眺めた。陸が風邪で寝込んだ時、看病のためにもらった合鍵。
「……よし」
それを使ってそっと部屋に入ると、思いのほか静かな室内が広がっていた。
陸はソファーで眠っていた。しかも、俺の上着をぎゅっと抱きしめて。
「うわ……マジか」
こんなかわいい姿見ちゃったら、俺の加虐心をくすぐるだけだぞ。
でも、はだけたシャツの隙間から、跡が目に入った。
「……チッ」
ムカつく。マジで何だよ、これは。
まあ、陸のことだからまた酔っ払ってて……きっと相手も酔った勢いでつけたんだろうな。
「……陸」
なあ、なんでお前が俺に怒ってるんだ。
おかしいだろ。約束破って、こうしてキスマークなんか付けられてさ。
「ほんと危機管理能力ゼロ……」
俺が守ってやらないと、すぐこれだ。結局陸は、俺から離れられないんだよ。
ソファーに近づいて、そっと陸の隣に座る。寝顔を見ていると、さっきの怒りも少しずつ和らいでくる。
酒臭い。……なのに、そんな姿さえ愛おしいと思ってしまう自分に、少し呆れた。
俺ってこんなに人を好きになれるんだな。今まで知らなかった。
客に対しては完璧に演技できるのに、陸の前だと素の自分が出てしまう。
時々、どっちが本当の俺なのかわからなくなる。
陸の髪をそっと撫でると、くすぐったそうに顔をしかめた。
「陸、起きてる?」
小さく声をかけてみる。返事はない。
本当に寝てるのか、それとも起きてるけど無視しているのか。
……どっちでもいいか。
俺は陸の体を抱き上げて、自分の膝の上に座らせた。重みを感じながら、背中をゆっくりと撫でる。
「陸……」
名前を呼んでみる。返事はない。
でも、体が少し俺の方に傾いてくる。
やっぱり、完全に寝てるわけじゃないな。
「……このキスマークは許さない」
首筋に唇を寄せる。陸の息が、一瞬だけ止まった。
「ちゃんと話そう」
囁くように言うと、陸の肩がわずかに震えた。
「陸……」
返事の代わりに、陸の手が俺のシャツをそっと掴んだ。
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