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第21話 独占欲、全開
side カイト
実はこの一週間、アフターや店外デートで縛られて、まともに二人の時間が取れなかった。陸のメッセージも素っ気ない。
今日最後の指名客は相当気合いが入っていた。
巻かれた長い髪、ツヤツヤの唇、派手なジェルネイル。きつめの香水に、キラキラしたアクセサリー。
谷間を見せつける露出の服、それとなく押し当ててくる胸。
普通の男性なら心惹かれるかもしれない。でも、俺にはどうでもよかった。
ホストの営業時間も終わり。
片付けとミーティングを済ませ、ようやく帰る準備に取りかかる。
「カイトさん、お疲れ様です」
「ああ、お疲れ様」
「珍しいっすね、カイトさんがアフター入ってないなんて」
「今日は無し。大事な用事がある」
やっと陸を独り占めできる……そう思って送ったメッセージの返信は――
『いま、先輩達と飲んでる』
は? 俺がどんだけ我慢してたと思ってんだ。なのにお前は先輩と飲み?
『何時に帰る?』
『わからん』
『場所教えろ』
『迎えはいらない』
つれない返事に、イライラが募る。
迎えにも行けねぇし、しょうがないから陸のマンションで合鍵を使って待つことにした。
ソファーに腰かけて一時間。
深夜一時半。ようやく玄関の鍵が開く。
「あれ、カイト来てたのか。ただいま」
「ただいま、じゃねーよ。遅すぎるし……酔ってんだろ」
「……そんなに飲んでねぇよ」
嘘つけ。ふらふらとジャケットを脱ぎ、ネクタイを外してる。完全に酔ってる。
「楽しかった?」
「うん、すげー楽しかった」
その答えが一番ムカつく。俺がいない間に他の奴らと楽しんでたのかよ。
「先輩って、どんな奴?」
「いい人だよ。すごく可愛がってくれるし」
可愛がる? その言い方、気に入らない。
「……何か変な事されなかったか?」
「ああ、ゲームの罰ゲームでキスとか? みんなでやってたから」
「はぁ? お前……」
血の気が引く。俺以外の奴に触られたって?
「だからって、なんでキスなんだよ!」
「別にいいじゃん、頬にちょっとだけだし」
頬でも嫌だ。というか、なんで平気な顔してんだよ。
「お前さ、もうちょっと危機感持てよ」
「大げさだなー。カイト、水くれる?」
話を逸らされた。
「ほら」
「ありがと」
水を飲んで、口端から零れた雫を袖で拭う陸。酔ってるから動作も雑だ。
「うわ、濡れた……」
そのままシャツのボタンを外し始めて、ソファーに倒れ込む。白い胸元が見える。
「陸、着替えろ」
「めんどい」
「なら俺が脱がす」
「やだよ」
手をひらひら振って拒否される。
「いいか、陸」
髪を軽く掴んで顔を近づける。
「お前は俺の恋人だろ。だから他の奴に触られるのは嫌なんだ」
「……別に恋人って決めた覚えないし」
陸が俺から顔を背ける。
「陸、こっち向けよ」
顎を掴んで無理やり向かせると、陸が拗ねたような顔をしてる。
「お前を離すつもりなんかねぇから」
「……知らねぇ。シャワー浴びる」
陸が立ち上がって、バスルームに消えた。
閉まったドアの向こうから、水の音が聞こえる。
俺はベッドの上で、ただその音を聞いていた。
……逃げられたな。
独占欲で縛りたいわけじゃない。
ただ、陸が他の誰かといるって考えてると、胸が苦しいし許せない。
シャワーの音が止む。
俺は何も言わず、ベッドの端に座って待った。
しばらくしてドアが開くと、濡れた髪の陸が出てくる。
視線を合わせようとしないまま、短く言い捨てた。
「もう寝る」
「陸、ちょっと話そうよ」
「話すことなんかない」
本当は伝えたいことが山ほどある。
なのに、陸は布団に潜り込んでしまった。
「明日にして」
そう言われて、俺は苦笑するしかなかった。
「陸……」
小さく息を吐いて、隣に横になる。
陸の背中越しに腕を回すと、少し強張った肩が指先に触れた。
「俺のせいで寂しい思いさせたよな」
沈黙。
けど、返ってきた声は小さく震えていた。
「別に寂しくなんか……」
「嘘つくなって。俺も寂しかったよ。陸に会えなくて」
耳元で囁くと、陸の呼吸が少しだけ乱れる。
ほんと、素直じゃないくせに反応は正直だ。
「だから明日は一日中一緒にいよう。どこか行きたいところある?」
「……別に、どこでもいい」
強がってる声が、くすぐったいくらい愛しい。
「じゃあ俺が決める。陸の好きそうな場所」
「……勝手にしろ」
その言葉に小さく笑って、もう一度、陸を抱き寄せた。
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