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第22話 “契約恋人”のラスト・デート

side 陸 昨夜はそのまま眠ってしまった。 目を覚ますと、先に起きていたカイトが俺を見てにやにやしている。 「……なに見てんだよ」 「陸の寝顔。可愛かった」 「見んな」 文句を言っても、カイトは余裕の笑みを崩さない。 「今日、どこ行くんだよ」 「秘密」 「秘密って……」 「いいから、黙って俺について来りゃいいの」 カイトが嬉しそうに準備してるのを見てると、こっちまで楽しみになってくる。 「とりあえず着替えろ。カジュアルでいいから」 「わかったよ」 言われた通り、着替える。 カイトも仕事の時とは全然違う格好で、なんか新鮮だ。 「じゃあ行こうか」 「どこに?」 「だから秘密だって」 手を引かれて外に出る。電車に乗って、気がつくと海の見える街にいた。 「うわぁ……」 海に着いて、思わず声が漏れる俺を見てカイトが得意げに言う。 「やっぱりな。お前、こういうの好きそうだと思った」 実際、海は好きだ。静かで癒やされる。 でもそんなこと言った覚えはないのに。 「……なんでわかるんだよ」 「俺だから。陸のことは誰よりもわかってる」 海沿いの道を歩きながら、カイトがぽつぽつと話し始める。 「……そういえば、陸に言ってなかったことがあるんだ」 「ん?」 「カイトって源氏名だけどさ、本名は同じなんだけど、漢字は“海音”」 思わず息が止まる。海の前で、こんなふうに名前を教えてくれるなんてな。 「海音……か」 「そう。陸と海。俺たち、名前だけでも縁を感じる。運命的だよな?」 「ああ……そういうの、ちょっと恥ずかしいけど、なんか嬉しいかも」 「だろ? あのさ、俺……実は普通の恋愛とかよくわからなくて」 「え?」 「ホストだから、客を喜ばせるのは得意だけど……本気で人を好きになったことがなかったからな」 急に真面目な話になって、驚く。 「陸と一緒にいると、今まで知らなかった感情がいっぱい出てくるんだ」 「……そう」 「嫉妬もそうだし、独占したいって気持ちも。こんなに人のことを考えて過ごすなんて、初めて」 カイトの横顔が、いつもより大人っぽく見える。 「だから時々、どうしていいかわからなくなる。陸を困らせちゃうこともあるし」 「……別に困ってないよ」 小さく答える。本当は嬉しいんだ、そんなに考えてもらえてるなんて。 「ありがと。陸は優しいな」 「優しくなんかねーし」 「優しいよ。俺のわがままに付き合ってくれるし」 そう言って、カイトが俺の手を握る。 「これからもよろしく、恋人さん」 「……勝手に恋人にするなって言ってるだろ」 でも手は振りほどかない。握られた手が温かくて、離したくない。 「じゃあ改めて聞くよ。陸、俺と付き合ってください」 「は? 今更何言ってんだ」 「ちゃんと聞いたことなかったから」 カイトが真剣な顔で俺を見つめる。 「返事は?」 「……考えとく」 「えー、考えとくって何それ」 「いきなり言われても困る」 本当は嬉しくて、すぐにでも「はい」って答えたい。でも素直になれない。 「じゃあ今日一日で返事決めて」 「一日って短すぎるだろ」 「十分だよ。陸の気持ち、俺にはわかるから」 にやにや笑うカイトがムカつく。でも、その通りなんだよな。 海を眺めながら歩いてると、だんだん心が軽くなってくる。 カイトと一緒にいると、素の自分でいられる気がする。 「陸」 「……なに?」 「好きだよ」 突然言われて、心臓が跳ねる。 「……急になんだよ」 「言いたくなったから」 カイトの笑顔を見てると、こいつと一緒にいたいって気持ちが溢れてくる。 でも、まだ素直に「好き」とは言えない。 もう少し時間が必要だ。今日一日で、ちゃんと気持ちを整理しよう。​​​​​​​​​​​​​​​​

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