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第23話 恋の行き先は俺次第?
海辺のカフェでお茶を飲みながら、カイトが俺の顔をじっと見つめてる。
「なんだよ」
「返事のこと、考えてる?」
「……まだ昼だろ」
さっきから何度も聞いてくる。そんなに気になるのか。
「でも気になるじゃん。陸の返事」
「うるさいな」
本当は、もう答えは決まってる。でも簡単に言うのは悔しい。
「ねえ、ヒントくれよ」
「ヒントって何だよ」
「脈ありなのか、なしなのか」
「……知らない」
カイトがため息をつく。
「陸って意地っ張りだよな」
「意地っ張りじゃない」
「十分意地っ張りだよ。可愛いけど」
可愛いって言われて、頬が熱くなる。
「可愛いとか言うなよ」
「事実だからしょうがない」
にやにや笑うカイトが憎たらしい。でも、嫌な気分じゃない。
カフェを出て、また海沿いを歩く。風が気持ちいい。
「陸、手つなごうよ」
「やだ」
「なんで?」
「恥ずかしいから」
正直に答えると、カイトが嬉しそうに笑う。
「恥ずかしいって、可愛いな」
「だから可愛いって言うなって」
でも、カイトが勝手に俺の手を取る。
「離せよ」
「嫌だ」
結局、手をつないだまま歩くことになった。最初は恥ずかしかったけど、だんだん慣れてくる。
「陸」
「なに?」
「俺と一緒にいて、楽しい?」
「……普通」
「普通って何だよ」
カイトが不満そうな顔をする。
「つまんないってこと?」
「そうじゃない」
「じゃあ?」
「……まあ、悪くない」
それが精一杯の表現だった。本当は楽しいし、嬉しいし、幸せだ。でもそんなこと言えない。
「悪くない、か。まあいいや」
カイトが満足そうに笑う。俺の気持ち、バレてるんだろうな。
夕日が海に沈んでいく。きれいな光景に、つい見とれてしまう。
「綺麗だね」
「……うん」
カイトも同じものを見てる。こうやって一緒にいられるのが、当たり前じゃないって気づく。
「カイト」
「うん?」
「その……」
言いかけて、やっぱり恥ずかしくなる。
「なに?」
「……なんでもない」
首を振ると、カイトが俺の肩を軽く叩く。
「素直じゃないなあ」
「うるさい」
でも、今日一日過ごして思った。
カイトと一緒にいると、自然に笑えるし、心が軽くなる。この気持ちを大切にしたい。
「そろそろ時間だよ」
「時間?」
「返事の時間」
カイトが真剣な顔になる。
「陸、改めて聞くよ。俺と付き合ってくれる?」
夕日をバックに、カイトがまっすぐ俺を見つめる。
心臓がドキドキして、顔が熱い。
「……考え中」
「まだ考えてるの?」
カイトが困ったような顔をする。
でも、もう答えは決まってる。ただ、恥ずかしくて言えないだけ。
「陸?」
「……わかったよ」
小さく答える。
「え?何て言った?」
「わかったって言った」
「それって……」
「……付き合う」
やっと口にできた。カイトの顔がぱあっと明るくなる。
「本当?」
「嘘じゃねぇし」
カイトが俺を抱きしめる。人前だから恥ずかしいけど、振りほどかない。
「ありがとう、陸」
耳元で囁かれて、顔が熱くなる。
なんなんだよ、もう……。
こっちはまだ心の準備もできてないのに。
夕日がゆっくり沈んでいく。オレンジ色に染まる海と、隣で笑うカイト。
静かで、ちょっとくすぐったい時間だった。
「なあ陸」
「……何」
「次のデート、どこ行く?」
「は? まだ今日終わってないだろ」
「それはそれ。次は“本物の恋人”になってからの初デートだし」
カイトが楽しそうに笑うのを見ると、なんでもいいかって思えてくる。
なんだよこの感じ。ムカつくけど、悪くない。
風の音に紛れて、小さく呟いた。
「……どこでもいい」
「そっか。俺も陸っていう可愛い“彼女”がいれば、どこでもいいかな」
「誰が彼女だよ!」
カイトが爆笑する。
まったく、調子に乗りやがって。
でも――
この時間が、もう少し続けばいいなって、心の中で思ってしまった。
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