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第26話 俺様彼氏とツンデレ彼女(男)

翌日。 昼を過ぎても、カイトからの返信はなかった。 ……本気で怒ってるな、これ。 スマホを何度も見返しては、ため息。 メッセージ履歴の最後に残る「今日はありがとう」が、今さらながら情けない。 「お疲れ。ボーッとしてるじゃん。大丈夫か?」 同僚の高橋が心配そうに声をかけてくる。 「別に、普通だけど」 「全然普通じゃないって。何、恋人と喧嘩でもした?」 「……まあ、そんなところ」 認めたくないけど、喧嘩なのかもしれない。 「喧嘩の原因は?」 高橋がコーヒーを持ってきて、俺の隣に座る。 「恋人が俺のためにって、高級レストラン予約してくれたんだけど……俺、そういうの求めてないって言っちゃって」 「あー、それは相手が可哀想だな」 ……やっぱりそうか。 「お前のために頑張って予約取ったのに、求めてないって言われたら傷つくでしょ」 「でも、俺は本当にそういうの……」 「それは伝え方の問題じゃない? 『ありがとう、でも普通のところの方が落ち着く』とか、言い方があるじゃん」 言われてみれば、そうかもしれない。 「俺、伝えるの下手だからさ」 「素直じゃないもんな、陸は」 「素直って何だよ」 「感謝の気持ちとか、素直に言えばいいのに。意地張っちゃうところあるじゃん」 図星を突かれて、何も言えなくなる。 「ちゃんと歩み寄らないと、このまま終わっちゃうかもよ」 高橋の言葉が胸に刺さる。 このまま終わるなんて、嫌だ。 仕事が終わるなり居ても立ってもいられなくなって、カイトの店へ向かった。 店の前に着くと、ちょうどカイトがスタッフと話していた。 「……カイト」 声をかけると、カイトが振り向いた。 一瞬だけ目を見開いたけど、すぐにいつもの調子で笑う。 「あれ、陸? どうしたんだよ」 その“いつもの笑顔”が、なんか逆に痛い。 無理してるの、わかるから。 「ちょっと……話、できるか?」 スタッフが気を利かせて奥に引っ込んでくれた。 カイトは腕を組んで、壁にもたれながら俺を見る。 「で……話って、何?」 「昨日のこと、怒ってるんだろ」 「怒ってないって言っただろ」 「でも……」 「まあ、ちょっとショックだったのは事実だけどな。俺なりに頑張ったつもりだったし」 その言い方がいつもより少し静かで、胸がチクッとする。 「……悪かった」 「ん?」 「昨日、冷たく言って。別に嫌だったわけじゃないんだ。ただ……慣れてなくて。ああいう場所」 カイトの目が少しだけ丸くなる。 「慣れてないって……高級レストラン?」 「そう。なんか落ち着かなくてさ。変な言い方になった」 「変な言い方どころか、“別に頼んでねぇし”って言っただろ」 「……それは、言葉の選び方を間違えた」 思い出すとマジで恥ずかしい。 あれは確実に地雷ワードだった。 「俺、高級なところより、普通に二人でいる方が好きなんだよ」 「普通にって?」 素直に言葉を出すのは、思ってた以上に難しい。 でも、もう逃げたくなかった。 「家で一緒にテレビ見たり、散歩とか」 カイトがふっと笑った。 「お前らしいな」 「らしいって何だよ」 「地味なところが」 ムカつくけど、嫌な言い方じゃない。 「今度からは、お前の好みも聞いてから決めるよ」 「別に、カイトの好きにしてもいいけど」 「いや、ちゃんと聞く」 カイトが俺の頭をポンポン叩く。 「……カイトが俺のために考えてくれたのも、ちゃんと分かってる」 「へえ。じゃあ、ちゃんと“嬉しかった”って言ってみ?」 「は?」 カイトがニヤッと笑って、俺の顔を覗き込む。 なんでそこで茶化すんだよ、ほんと。 「……嬉しかった」 「声が小さいな」 「……は?! ちゃんと言っただろ!」 顔が熱い。多分、耳まで真っ赤だ。 「陸は可愛いな、ほんと」 悔しい。けど、素直になれ……俺。 「……カイト、嬉しかったよ。ありがとう」 「よし、合格」 カイトが満足そうに笑って、俺の頭を軽く撫でる。 「次はもっと、気楽なとこ行こ。ファミレスとか、映画とか」 「……最初からそうしろよ」 「だって特別なデートにしたかったんだよ」 その言葉に、思わず笑ってしまう。 ほんと、こいつには敵わない。

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