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第28話 普通の生活、君と一緒に
あれから一ヶ月。前より関係は良くなったと思う。
カイトも俺の意見を聞いてくれるようになったし、俺も素直に気持ちを伝えるように努力してる。
でも、時々複雑な気持ちになる。
「陸、今度の休み何する?」
カイトが俺のマンションでくつろぎながら聞いてくる。
「別に、普通に過ごすけど」
「普通にって、二人で?」
「そうだけど」
「いいね。俺も最近忙しくて、陸との時間少なかったし」
そう、カイトは忙しい。ホストの仕事は夜だけじゃなく、アフターや店外デートもある。
「カイト、疲れてない?」
「大丈夫だよ。慣れてるから」
でも、よく見ると少し疲れてる気がする。
「なあ、カイト」
「何?」
「その……将来のこととか、考えてる?」
「将来?」
カイトが不思議そうな顔をする。
「ホストの仕事、ずっと続けるのか?」
「……なんで急にそんなこと聞くんだ」
「別に、ただ気になっただけ」
カイトが少し考え込む。
「正直、わからない。今は稼げてるし、辞める理由もないし」
「でも、体力的にはきついだろ」
「まあ、そうだけど……陸、もしかして俺の仕事嫌?」
「前にも言ったけど、嫌じゃない。ただ……」
言いかけて、やめる。
「ただ、何?」
「……なんでもない」
本当は、他の女性と親しくしてるのを見るのはちょっと辛い。
でも、それを言ったら束縛してるみたいで嫌だ。
「カイト」
「何?」
「本当に仕事のこと、悩んでねぇの?」
この前、花音さんがカイトにその話をした時、珍しく感情的だった気がする。
「悩んでるって言ったら、どうするんだ?」
「どうするって……」
「俺に仕事辞めろって言う?」
「そんなこと言わない」
でも、内心では複雑だ。カイトの人生だから口出しできない。
「陸、お前はどう思ってるんだよ。俺がホスト続けること」
真剣な表情で聞かれて、答えに困る。
「……カイトが決めることだからな」
「それは答えになってない」
カイトが俺の肩を掴む。
「正直に言えよ。お前の気持ち」
……正直に言えば、辞めてほしい。でもそれは俺のエゴだ。
「俺の我儘なんだけど……」
「いいから、言えよ」
「いつかは辞めてほしい。でも、カイトの人生だから、俺が口出しすることじゃないと思う」
カイトが俺を見つめる。
「なんで辞めてほしいんだ?」
「……不安だから」
「何が不安なんだ?」
「そりゃ、将来もだけど、カイトが他の人と親しくしてるのも。全部不安」
やっと本音を言えた。カイトが俺を抱きしめる。
「陸……」
「でも、俺のせいでカイトが後悔するのは嫌だ」
しばらく抱きしめられていて、カイトがぽつりと言った。
「俺も、実は考えてたんだ」
「え?」
「陸と一緒にいると、普通の生活がしたくなる」
その言葉に、胸がドキッとする。
「普通の生活って?」
「朝一緒に起きて、夜一緒に寝る。休日は二人でのんびり過ごす。そういう当たり前の生活」
カイトが俺の髪を撫でながら言う。
「でも、今の仕事じゃそれができない」
「カイト……」
「陸、俺と一緒に普通の生活、したい?」
その質問に、迷わず答えた。
「したい」
カイトが微笑む。
「じゃあ、考えてみる。真剣に」
その夜、俺たちは将来のことについて長い間話し合った。
初めて、本当の意味で同じ方向を向けた気がした。
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