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第29話 俺様彼氏の本領発揮

それから一ヶ月。 「陸、起きろ」 カイトの声で目を覚ます。いつもより早い時間だ。 「なんで?まだ早いじゃん」 「大事な話があるから」 カイトの表情が真剣で、一気に目が覚める。 「何の話?」 「仕事、辞めることにした」 その言葉に、心臓がドキッとする。 「本当に?」 「ああ。昼間の仕事探すことにした。陸と普通の生活がしたいから」 カイトがベッドに座り込む。 「でも、今より給料下がるかもしれないし、俺のわがままに付き合わせることになるけどな」 「わがままじゃないだろ、それ」 「いや、わがままだよ。でも俺は陸が欲しいから、自分の好きなようにする」 カイトらしい言い方に、少しホッとする。 「それで? 俺に何か言いたいことがあるんだろ」 「ああ」 カイトが俺の顎を掴んで、まっすぐ見つめる。 「陸、これからもっと俺と一緒にいる時間が増える。朝も夜も、休日も全部俺のものだから」 「全部って……」 「全部だよ。文句は聞かない」 有無を言わせない口調に、ドキドキする。 「こう見えても俺は一途だし尽くすよ。だからもっと俺を好きになって。陸が欲しいものなら俺がなんでもあげる。その代わり、俺の言うこと聞けよ」 真っ直ぐすぎる言葉に、胸がちくりとする。 ずるいよ、そんな顔で言われたら。 「……うん」 思わず返事してしまった自分に驚く。 「よし。じゃあまず、愛してるって言えよ」 「なんでだよ」 抵抗してみせたのに、カイトが拗ねたように眉を下げる。その仕草が、俺の心をくすぐって仕方ない。 「……言わないと、もっと意地悪するからな」 「意地悪って何を」 「知りたい?」 カイトがにやりと笑う。絶対に知りたくない。 「……わかった。カイト、愛してる……よ」 口にした瞬間、顔が熱くなる。 「もう一回」 「え?」 「もう一回言え。今度はちゃんと俺の目を見て」 カイトが俺の顎を掴んで、視線を合わせる。 「……カイト、愛してる」 今度ははっきりと言えた。 「え、何それ、かわいすぎだろ」 ニヤけたカイトの顔がすぐ目の前にあって、余計に恥ずかしい。 「なぁ、陸。俺スイッチ入った……」 「や……ちょ、まって……!」 言う間もなくカイトが覆いかぶさってきた。 すぐ横にある彼の手がギュッと力を込めて、逃げ場を塞いでくる。 「逃がさないからな」 「カイト……」 「陸、好きだ」 「……俺、も……」 自然に口をついて出た言葉。 カイトの顔が近づいてきて、息が触れそうな距離に。 ――もう逃げられない。 そっと触れた唇に、体の奥まで熱が走った。 * 翌朝、起きると体のあちこちが痛かった。 昨夜はソファーの上で……思い出すだけで顔が赤くなる。 「おはよう、陸」 隣でカイトが満足そうに微笑んでいる。 恥ずかしくて顔を逸らすと、カイトに強引に抱き寄せられた。 「おい、俺から顔逸らすなよ」 「……っせ、恥ずかしいんだよ」 「恥ずかしがる必要ないだろ。お前は俺の恋人なんだから」 カイトが俺の顎を掴んで、無理やり顔を向けさせる。 「カイト、お前……意地悪だな」 「意地悪じゃない。躾かな」 「躾って何だよ」 「陸が俺から逃げないように、ちゃんと教えてやってるんだよ」 カイトの俺様っぷりに呆れるけど、嫌じゃない。 ……ただちょっとだけ、仕返ししてみようかな、って思った。 「……カイト」 「ん? 何?」 「好きだ」 手を伸ばして、カイトの頬に触れてみる。 普段は俺を支配するくせに、少し反撃されるとカイトの目が驚いたように見開く。 「俺だって、少しは反撃できるんだよ」 「おう……面白いじゃん」 俺はカイトの耳元に顔を近づけて小声で囁いた。 「……もう少し我慢してみろよ」 「は? 俺に命令するつもり?」 カイトの目が険しくなる。 「……たまには俺の言うことも聞けよな」 上目遣いで見つめると、カイトの表情が一瞬固まった後、ふっと笑みを浮かべる。 「調子乗るなよ、陸。お前が俺に命令できると思ってんの?」 「それは……」 「やっぱ無理だ、我慢できない。陸、顔上げろ」 「ん……」 結局、カイトのペースに戻ってしまう。 キスを交わし、溶け合うように抱きしめ合う。 俺様でもなんでもいい。黙って従っておけばいいような気がする。 それを認めてしまっている俺は、もうすでにカイトに囚われているんだろうな……と思った。 この束縛も愛情の表れなんだと理解できる。 カイトは俺を大切に思ってくれているから、こんなに独占したがるんだ。 「カイト」 「ん?」 「愛してる」 「……最高だね。俺も愛してる」

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