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第2章 禁じられた恋5

「酒を飲んでたけど俺は酔って理性がなくなるタイプじゃねえ。あのとき、ほかの女に、おまえを奪われたくない、渡したくないって思ったんだ。だから奪った」 「何、それ……僕は、きみの家の馬や牛じゃないんだよ。一緒にしないでほしいんだけど」  澄んだ黒い目をまっすぐ見つめながら本心をストレートに伝えるとカイトの手から力が抜け、腕に手を添えているだけの状態となった。  呆然としながら俺を見上げてくる。無意識に上目遣いをしている姿が、男なのにかわいいと思ってしまうなんて、どうかしている。  重症だ。 「んなもん、当たり前だろ。おまえは家畜じゃなく俺と同じ人間なんだから」  左肩に置かれていた手を取り、ゆっくり引き寄せる。するとカイトは、すっぽりと腕の中に収まった。抵抗もせずに、おとなしい飼い猫のように、俺の胸に頭を預けている。  両親や兄弟と挨拶するときや、歓喜したときに村の幼馴染とするハグじゃなく、恋人や夫婦がするように、目の前の青年を抱きしめる。  自分の心臓とカイトの心臓が一定のリズムで鳴っているのを感じながら目を閉じた。  一回り小さい身体から伝わってくる体温も、服についたお日様と草地の香りも、カイト本来の花みたいに甘くていいにおいも嫌悪感など一切感じない。  雪の降る夜に暖炉の前で身体を温めているときみたいに温かい気持ちになって心地よくなる。 「……こんなことをして何になるの? きみの家族は怒るし、神父様やシスターたちだって困り果てるだけだよ。神様は僕らをお許しにはならない」 「だったら、今すぐ俺を突き飛ばせばいい。『酒に酔った兄貴分に襲われた』のは、おまえだからな」 「違うよ、ヒロ。僕が拒めばよかったんだ。でも己の欲に負けて、きみを求めた」  背中にカイトの腕が回る。  それだけで俺には充分だった。後ろ指を指されて村から迫害されたり、法に基づいて死ぬことになっても、最期の瞬間まで大好きな人のそばにいられるなら構わないと思ってしまったんだ。 「だったら問題ないだろ。俺も、おまえも同じ気持ちなんだ。たとえ夫婦になれなくても、病めるときも、健やかなるときも喜びや悲しみを分かち合えばいい」  そうして、この日から俺たちは神や大切な人たち、周りの人たちをあざむく生活を始めたのだった。

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