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第3話
揺らぐ影と、棒付きの秘密
午後の光が斜めに差し込み、机の上に飴玉の影を映した。
星乃來夢はポケットから三つの飴を取り出す。苺、ソーダ、みかん。
包み紙が擦れる音は、誰にも聞かれたくない心の音に似ていた。
「今日も……先輩のところに来ました」
教室の扉口に立つ神城煌真。
靴音を控えめに落とし、一歩ごとに間を測る。
「いいじゃん。歓迎するよ」
來夢は苺を舐め、甘酸っぱさを舌に広げた。
そのとき、外から弾む声。
「やっぱりここか、來夢!」
翔琉が現れ、机に肘をつく。
光を反射する袋から、赤い棒付きキャンディを差し出した。
「ほら、珍しいやつ見つけた」
來夢が受け取ろうとした瞬間、隣で神城の指が強張った。
手の甲に浮かんだ青い血管が、心の奥の嫉妬を告げていた。
「……星乃先輩。それは、俺には渡してくれないんですか」
抑えた声。翔琉が横目で笑った。
「おー怖。独占欲すごいな」
來夢は二人の視線の間に立ち尽くす。
夕陽が窓枠を赤く染め、三人の影を重ねて伸ばした。
◇
渡り廊下。
外から吹き込む風に砂の匂いが混じる。
翔琉は鞄を揺らしながら言った。
「來夢って、誰にでも優しいからな。
でもな、そういうの一番やきもきするんだぜ」
隣で神城の拳が震え、白く握りしめられていた。
「……俺は、やきもきしています」
短い言葉に熱がこもる。
翔琉は挑発するように口角を上げた。
「なら頑張れよ。來夢は簡単に手に入らない」
來夢は足を止め、二人を見た。
「俺は……釣られてるんじゃなくて。
ただ、あげたいだけだから」
その一言が、夕陽より強く影を揺らした。
◇
夜。
來夢は部屋で赤い棒付きキャンディを口に含んだ。
硝子のような硬さが舌を押し、冷たい甘さが広がる。
思い浮かぶのは、神城の強張った指と、翔琉の笑み。
正反対の温度が交差し、味を複雑にしていた。
◇
翌朝。
校門前に立つ神城の手には、昨日の飴の包み紙。
角が折り畳まれ、几帳面に仕舞われている。
「先輩。……俺は、誰でもなく、あなたの特別が欲しい」
瞳に射抜かれ、來夢は言葉を失った。
ポケットで棒付きキャンディを転がす。
固い角が指腹を刺し、答えを迫るように冷たく光った。
――第3章おわり――
⸻
🌙 次回予告
第4章|独占欲と拗ね顔
棒付きキャンディを巡る揺れる想い。
來夢をめぐって火花を散らす二人の間で、選ばれるのは——。
甘さの裏に隠された独占欲が、いよいよ色濃く浮かび上がる。
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