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Act1.帝光学園 それぞれの思惑1《Side 桐生彩都》
そうして騒ぎは沈静化した。
「ミシェル!」
ポニーテールの男子が信濃さんのところへ駆け寄った。
「謙ちゃん」
花がほころぶような笑みを浮かべ、信濃さんは男子生徒と手と手を取り合う。
親密なふたりの様子に僕は、あれ? と思い、近くにいた伊那は石のように固まってしまった。
「大丈夫、どこか怪我してない?」
「わたしは平気よ。桐生さんたちに守ってもらったから」
しかし「謙ちゃん」と呼ばれた生徒は、信濃さんの言葉が耳に入っていないのか、鋭い目つきで僕らのほうを睨みつけてきたのだ。
「またですか、桐生さん。なんで、こんな騒ぎを起こしたんです!?」
「上杉くん、待ってよ。きみまで風紀委員長様みたいに因縁をつけてくるわけ?」と太郎ちゃんが僕らの前に立つ。
「なんで、そんな人を庇 ったりするんですか、佐藤くん? 結果的に桐生さんが、オレの彼女兼婚約者であるミシェルを巻き込んだのは本当じゃないですか」
「彼女兼婚約者……だよな、信濃さん、かわいいし」
どこか遠くを見つめている伊那が、ぶつぶつと独り言を口にしている。一目惚れした女の子に相手がいて傷心状態になっているのだ(いつものことだけど……)。
ルークが「ドンマイ、伊那」と落胆している彼の背中を容赦なく叩いている。
「あなたたちって、ろくなことをしないですよね! まるで疫病神みたいに災厄を振りまいているし。一体、学園に何をしに来てるんですか!?」
「任務を遂行するため」とは言えないので「勉強をするためです」と答える。
便乗して、おちゃらけたルークが「タイマン相手を見つけるため」、まじめなな顔をした太郎ちゃんが「友だちと過ごすため」、伊那が「かわいい彼女を作るため」と言えば、上杉くんが口元をひくつかせた。
「あんたら、ふざけてないでねえ……!」
顔を真っ赤にして上杉くんが拳を震わせていると、ルークが意地悪い顔をして笑い、伊那に至っては目の下を指で下げ、舌を出した。
「謙ちゃん、いいの。もうやめて。桐生さんたちの言っていることは本当よ。副会長様の親衛隊である、あの人たちのほうが喧嘩を売って、先に手を出したの」
「だけどミシェル」
「よせ、上杉」と荊棘切さんも制止の声をあげる。「信濃の無事が確認できたんだから、よしとしろ」
「ですが!」
まさか主人である荊棘切さんに注意されるとは思っていなかった上杉くんが、うろたえた様子でいる。
しかし荊棘切さんは、すでに次の仕事をこなすためか、僕らのほうへ目線をやった。
「桐生」
胸が高鳴る。彼に名前を呼ばれてうれしく思う気持ちと、何を言われるのだろうという恐怖を感じながら、「はい」と返事をした。
「副会長様の親衛隊が、おまえたちに絡んでいたという言葉を職員の方や、ほかの生徒から聞いてはいる。職員室で待機してもらっているスクールポリスの方も再度監視カメラでの確認を行い、あの三つ子たちから任意の事情聴取をすると言っていた。だが公正さをかねるため被害者であり、現場にいたおまえや、おまえの友だち、付き人の意見も聞かせてもらわなくてはいけない。昼休みから放課後に掛けて、生徒会室へ来てもらい、ひとりずつ話を訊かせてほしいんだ。了承いただけるだろうか?」
「おい、荊棘切。助けてもらった礼は言う。借りもいずれ返すが、なんでおれたちが、そんな七面倒くさいことをしなきゃいけねえんだよ!」
機嫌の悪い伊那は、あからさまに「やりたくない」というオーラを出している。
ところが……「そんなことを言わないで、守家くん。私の顔を立てると思って荊棘切くんに協力してくれない?」
微笑を浮かべた土井先輩の一声により「もちろん、土井先輩の頼みなら、いくらでもやりますよ」と手のひらを返すように態度を変えたのだ。
そんな彼の様子に僕と太郎ちゃんはあきれ果ててしまう。
頭の後ろで手を組んだルークは、「伊那は女の子にコロッと騙されるな。ウケるー」とケラケラ笑っている。
「助かる。順番としては守家、友禅、佐藤、桐生の順でやらせてほしい。異存はないな、桐生」
「もちろんです、荊棘切さん」
「時間帯については生徒会の公式サイトからメールを送る。では、後ほど」
そうして颯爽と生徒会メンバーの人と、その付き人たちが帰っていった。
昼休みになると、僕と太郎ちゃんはAクラスの廊下に出た。ふたりで午前中に受けた授業や、お昼ご飯についてを話していると、Jクラスからやってきた伊那とルークの姿が見える。
「ルーク、ちゃんと彩都のことを守れよ」
「もちろん、わかってるよ、伊那。任せてー」
「それじゃ、ちゃっちゃと必要なことだけ話してくるわ」
「うん、いってらっしゃい」
そうして伊那の背中を見送っていると「桐生くん!」と声を掛けられる。
「また、来たよ」とルークが小さく耳打ちをしてきて、ひそかにため息をつきながら、声がしたほうへ振り向く。
「水無月先輩……」
三年生がいる棟から走ってきたのか、先輩は息を切らし、額に汗をかいていた。
昼休みで場所を移動したり、食堂や購買に向かう生徒たちの視線が刺さった。
「ぼくの親衛隊がきみに手を出したって訊いたよ。怪我はしてない?」
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