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Act1.帝光学園 それぞれの思惑2
言うや否や水無月先輩に右手を取られ、撫でられる。
生理的な嫌悪感に鳥肌が立つ。
しかし副会長である彼を慕っていたり、僕が学園に混乱をもたらしたアンチ王道転校生であると信じている生徒たちは、僕に侮蔑の眼差しをむけてくるばかりで誰も助けてくれない。
それどころか――「あー、やだやだ。女でもないのにエリートの男に求愛されてるのを自慢して」
「超能力も、家柄も大した子じゃないもの。玉の輿に乗ろうとしてるんじゃない?」
「自分のほうが女よりも男にモテるって自慢してるわけ? 鏡を見ろって話だっつーの」
変 装 により今の僕は、かなり不気味な容姿をしている。だからといって廊下を歩いている彼女たちや彼らが噂しているようなことは、これっぽちも思っていないのに……。
だとしても周りの心証をこれ以上、損ねるわけにはいかない。
「ご心配いただき、ありがとうございます」とお礼を言って手を引っ込めようとする。
だけど思いのほか強い力で手を掴まれ、水無月先輩の手を振りほどけない。
「なんて言ったらいいのか……ぼくが親衛隊である彼らを制御できなかったから、こんなことに」
「僕は傷ひとつない状態です。でも伊那が手と頬にすり傷を……痛っ!?」
右手の骨がきしむ音がする。
先輩がぼくの手を力の限り握ってきたからだ。彼は、まるで爬虫類みたいな温度の感じられない目をして、僕をじっとみつめてきた。
「伊那って、きみの付き人のひとりだよね。確かJクラスの」
「そうですが何か?」
「なんでぼくが、きみの心配をしているのに、きみはたかが付き人の心配をする? それもJクラス。頭も悪ければ、超能力の格も低いやつだ。どうして、ぼくよりも、そんなやつのことを考えたりする……!」
「いっ、つっ……!」
「彩都くん!」
「ちょっと副会長様、そりゃあ、ないんじゃない?」とルークが水無月先輩の手を掴んだ。
「なんだ、おまえ……」
「彩ちゃんの付き人その二をしてる友禅ですよ」
「汚い手でぼくに触るな、汚らわしい!」
鬼のような顔つきをした先輩がルークの手をはねのけるために三つ子のように水の超能力を使用する。
ルークは自分のほうに向かってくる水鉄砲をすんでのところでよけ、筋力を強化して先輩の手をひねり上げた。
ようやく僕の手首を掴んでいた先輩の手が離れる。僕は手形がくっきりついた手首を抑え、太郎ちゃんがいるところまで下がった。
「おまえ、ぼくに、たて突くつもりか……?」
「べつにー。そんなんじゃありませんよ。ただ付き人は優秀なサポーター。親衛隊は生徒会と風紀しか作れないけど付き人は志願制だ。富豪の家や名門家ならハウスキーパーや家政婦なんかも雇える。わけありの友だちや兄弟を守りたい人間も申請書さえ出せば、なれるもの。
伊那と彩ちゃん、ボクは親戚関係なんだ。ボクも、伊那も親の言うことなんて素直に聞くような人間じゃない。けど、個人的に彩ちゃんの人となりは気に入ってるんだよ。兄弟みたいに思ってる」
「だから、なんだという?」
「自分と仲いい兄弟が、言い寄られて困っていたら、助けるに決まってるでしょ。それとも副会長様には、そういう相手はいない? だからいやがっている子を痛めつけるし、片思いをしている相手が自分以外の人間を心配しただけで癇 癪 を起こすのかな?」
「貴様……!」
そうして、ふたりは睨み合いをする。
一触即発のピリピリとした空気が彼らの間に漂った。
「そこで何をしている!?」
見回りをしていたスクールポリスの和 美 さんが水無月先輩とルークに声を掛ける。
公安の人や蜘 蛛 之 網 家となんらかの関わり合いがある人間しか、僕や伊那、ルークがどんな存在か知らないし、太郎ちゃんが重要な仕事を国から任されていることなど知る由もない。
和美さんは、法の万人として規則や法律を遵守し、未成年の子どもたちによるいじめはもちろん、暴力沙汰や暴行、万引き、ハッキング、個人情報の漏洩などにも容赦なく対応する番犬だ。
問題ばかり起こしている僕らにも目を光らせている。ときと場合によっては敵にもなりかねない要注意人物だ。
普段、のらりくらりしているルークの顔に緊張が走る。僕と太郎ちゃんはアイコンタクトを取り、彼から意見を求められ目立たないように
水無月先輩は、おもしろくなさそうな顔をしてぼくのほうへ目を向ける。
「またね、桐生くん。いつかぼくのことも、伊那くんや友禅くんのように、大切な家 族 として意識してもらえると、うれしいな」
「先輩……」
目を細め、口角を上げる、その顔つきは親衛隊の人たちがいう「絶対零度の王子」と表するものとは、あまりにも遠く、かけ離れていた。
どこか異様で底知れない彼の笑顔に内心、ぞっとしながら「そんな日は永遠に来ませんよ」ときっぱり断る。
「はたして、そうかな?」
不敵な笑みを彼は浮かべた。そうして水無月先輩はスクールポリスから逃げるように僕らの前を去ったのだ。
「あっ、おい!」
「大丈夫ですよ、おまわりさん。ちょっと言い合いをしていただけですから」
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