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第4話 上級魔物の巣窟
「幸運を祈る」
「ああ、お前もな」
ヒューさんはそう応じると、今度はオレを見て人好きのする笑みを見せる。ストレートの銀髪に翡翠の瞳、ひょろっとした長身だけれど圧巻の美形で、黙っていたら冷たく見えそうな顔なのに、にこにこ笑ってくれるからとにかくカッコイイ。
最強魔法騎士様とは違ったかっこよさだよな。これで二人とも実力者なんだと思うと、天は二物も三物も与えるんだな、って思うよな。
「イール君だったよな。君も頑張って」
「あ、ありがとうございます……!」
「ははは、なんで敬語なんだよ。同期だろう」
明るく笑ってオレの肩をポンポンと叩き、「じゃーな!」と走り去っていった。
なんていい人なんだ! と思わず感動のままその後ろ姿を見送っていたら、最強魔法騎士様から「行くぞ」と促される。
その背中を追って小走りでついて行ったら、しばらく行ったとこで急に最強魔法騎士様が振り返った。
「そろそろいいか」
「え?」
その一瞬で目の前にいた筈の最強魔法騎士様がフッと消える。
「え?」
次の瞬間天地がぐるっとひっくり返った。
「ひえっ!!???」
さらに次の瞬間。
周囲から人の姿が消え、周囲がなんか分からない緑色になっていた。
「待っ……えっ、ちょ……」
「口を閉じていた方がいい。舌を噛むぞ」
何が起こっているのか。全然理解が追いつかない。
腹が痛くて天地が逆で、なんか最強魔法騎士様の背中とか腰とかお尻とか足とかが見えて、身体も上下に揺れてる。
多分担がれて運ばれてるんだろうって思うけど……思うけど!
せめてなんか説明するとかできねぇかな!
走る最強魔法騎士様の肩がオレの腹に食い込んでめっちゃ痛てぇから、なんとかその背中を掴んだりしたいけど、揺れる中でレザーアーマーをうまく掴むことができなくて、四苦八苦してるうちにいきなりぴたっと揺れが止まった。
「……?」
ホッとしたところで最強魔法騎士様がなにやら呪文を唱えた声がして、やっと俺は地面に降ろされる。
「なんなんスか、急に……って、ここどこ!!???」
急に人の姿がなくなったような気はしてたけど、なんで周囲が鬱蒼とした森に変わってんの⁉
「フィグテム樹海だ」
「それどこにあるんスか! 聞いたことないけど……え、つーかさっきまで広場にいて」
「ああ、転移魔法だ。ここは上級魔物の巣窟になっているから、ここで手早くBランクを五体倒して、残った時間で海に移動して、できればシーサーペントを」
「待って! 待って待って待って……!」
「どうした」
どうしたじゃないでしょうよ! ツッコミどころが多すぎて何からツッコめばいいのか分からないレベルだよ!
転移って何? そんな夢みたいな魔法、何で知ってんの!?
手早くBランクを五体倒すって何? Bランクって普通、数人がかりで倒せればラッキーだからね!?
海に移動してシーサーペント倒すって何!? そんなS級魔物、簡単にお目にかかれるわけねーだろ!
色々疑問だし聞きたいけど、それよりなにより。
「上級魔物の巣窟って何? ここ、そんな危険なとこ!?」
「危険だが、周囲をよく見てくれ。結界を張ってある」
「結界……」
もう笑いしか出ない。最強魔法騎士様ともなると、ごく一部の上級者しか会得できないと聞く『結界』もごく当たり前みたいに使いこなすらしい。
確かに周囲を目を凝らしてよくよく見てみたら、まるでシャボン玉みたいに薄い虹色の膜がオレ達を中心にドーム型に展開されている。
「魔物の解体とかもあるから、結界は大きめに作ってある」
そう言われれば、軽く家一軒分はありそうなデカさ。結界って大きさまで自由に変えられるんだな。そんな事を考えつつ周囲を見回していてふと気が付いた。
「なんか、ここだけ木とか下草がない……?」
「ああ、以前に大物に遭遇してインフェルノで焼き尽くしたんだ。ここなら野営しやすいかと思って」
「……」
炎系の最上級魔法じゃねぇかよ。なんかもう異次元過ぎて、ツッコむ気にもなれない。最強魔法騎士様、本当に最強すぎるだろ……。
パートナーになってから一時間経つか経たないかっていう短時間で、オレは早くも最強魔法騎士様とのレベルの差というものを、ひしひしと肌で感じていた。
「すまんが時間がない。俺は狩に行ってくる」
「は!?」
「さっきも言ったがこの樹海は上級魔物が跋扈している。結界から出たら確実に魔物の餌食だ。絶対に結界から出ないでくれ」
最悪だ。
「それさえ守れば何をしていてもいい。日暮れまでには戻る」
「待って! ちょっ……」
それだけ言い残して、最強魔法騎士様はあっという間に樹海の中へと消えてしまった。止めようにも、走る速度が速すぎて瞬きする間に居ないんだからどうしようもない。
あとに残されたのは結界に守られただだっ広い空間と、遠くから聞こえるなんだかよくわからない鳥の鳴き声だけだ。
「はー……なんか、もう……」
がっくりきた。
「彼は死なせませんし、期限内に充分な魔物も狩ってくる予定ですから、ご心配なく」
最強魔法騎士様が言い放った言葉の意味をここにきて理解する。
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