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第5話 情けなくて悲しくて
なるほどね。これなら確かに、オレを死なせることなく魔物の討伐に集中できるだろう。オレが役に立てるとは思ってなかったけど、まさか足手まといになることすらできないとは。
「…………」
最強魔法騎士様が人間とは思いたくない速さで消え去ってから数分。
相変わらず鳥だの獣だのの声しか聞こえない結界の中で、ふと我に返ったわけだけど。
「何をしていてもいい」って言われてもさ、こんな樹海の只中で、何ができるってんだよ!!!
そりゃあさ、一緒に行ったって絶対に足手まといだけど!
そもそも一緒に行けるような移動速度じゃなかったけど!
「ちくしょう……」
情けなくて悲しくて、涙が込み上げてきた。
何の期待もされてないって……分かってたけど、こんな風にハッキリと態度で示されるとやっぱり結構ダメージあるんだな。
でも。
こんなことで泣いてる場合じゃないだろ、オレ。最強魔法騎士様は、今頃Bランクの魔物と渡り合ってるかもしんねぇんだ。
確かに邪魔しないで大人しくしてりゃ、何もしなくても卒業できるくらいの魔物を最強魔法騎士様が狩ってきてくれるんだろうさ。なんせ転移も結界も攻撃魔法もホイホイ使えるんだから。
でも、オレにだって意地がある。
戦闘で役に立たねぇなら、せめてサポートくらいバッチリやってやろうじゃないか。
オレだって冒険者登録はしてあるし、依頼をこなすために野営するのも日常茶飯事だ。本当は低級だけど魔物の討伐も結構やってるから、解体だってできるんだけど、それは最強魔法騎士様の前じゃおこがましくて「できる」なんて言えないレベルだろうし。
さっき最強魔法騎士様は「日暮れまでには戻る」って言ってた。つまり、ここで野営するつもりなんだろう。
とりあえずは結界の中でくつろげるような環境づくりと、飯の準備だな。
オレはマジックバッグの中から、いつも野営に使ってるものを取り出していく。
イスとテーブル、鍋や皿、コップをいくつかと金たらい。寝袋。あとは買っといた野菜。いつもはソロで動いてるから、一人用のコンパクトなものしか持ってないけど、寝袋くらいは最強魔法騎士様も持ってるだろうし、俺よりも上等な野営道具を持ってるとは思うけどさ。
「しかし困ったな」
イスやテーブルは設置できたけど、困ったのは鍋だ。いつもならそこら辺の木をかき集めて焚火をするんだが、なんせ最強魔法騎士様がインフェルノで下草まで綺麗さっぱり燃やし尽くした場所なだけに何にもない。
金たらいに水石をぶち込んで水を溜めながら、俺は結界内をぐるっと見て回ることにした。
ところがだ。
「ねえなー。マジでなんもねえな」
思わずぼやいてしまうほど、結界の中には何にも落ちていない。インフェルノの威力の凄まじさを感じると共に、オレは憤りも感じていた。
あるのはむき出しの土だけで、本当に結界の中には使えるようなものは何もない。端の方に芽を出したばかりの下草がほんのわずかにある程度。
これじゃ焚き木すら拾えない。
結界の外には呆れるくらい樹木があるのに。せめてちょこっとくらい、樹海に範囲を広げて結界を張ってくれればよかったのに。
「帰ってきたら文句言ってやる」
実行できるかは怪しいが、そんな気持ちだった。
イスやテーブルを設置した生活スペースに戻ったオレは、マジックバッグの中から数個の石を取り出す。テーブルの上にオレが命の次に大事にしてる石たちを並べてしばし悩んだ。
高い金を出してひとつずつ、ひとつずつ、大切に増やした『魔法石』。魔法と魔力を込めておける、すごく不思議な石だ。
この石に使いたい魔法を登録して魔力を溜めておけば、機動の魔力をちょっと流すだけで、いつでも魔法が発動できる。ひとつの石には同じ系統の魔法しか登録できないってのが玉に瑕だけど、それでも充分ありがたい。
しかも使い続けていけば魔力を溜めておける量も増えるし、登録した魔法も強力になっていくって言うんだから、オレみたいに魔力はバカみたいにあるのに魔法を発動するのが苦手なヤツにとっては喉から手が出るほど欲しい品だった。
生活を切り詰めて切り詰めて、やっと手にした大切な石。グレーの石には『防護』、赤い石には『ファイア』、そして金たらいにぶち込んだ青い石には『ウォーター』を込めてある。
金たらいと鍋に水を満たしてふうっとひと息つくと、オレは防護石を握りしめて、そっと機動のための魔力を流す。
ヴン、と小さな音がして、自分の肌を守るように防護魔術が展開された。
「まだ防護魔術のレベルが低いから、そんなに役に立たねーかも知れねぇけど」
それでも、ないよりはマシだろう。
次いで、マジックバッグの中からグローブを取り出して装着する。これは二の腕まで守れる上に、魔法石を両手で六個まで装着できる優れものだ。
まぁ、魔法石、六個も持ってないけど。
魔法石をグローブに嵌め込めば、いよいよ準備完了だ。
またひとつ、ふぅ、と大きく息をする。
最強魔法騎士様には結界から出るなって言われたけど、こんなに何もないとさすがにどうしようもない。すぐに結界に逃げ込める場所で、必要なものを諸々採取しよう。
オレは、ついに結界から足を踏み出した。
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