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第6話 【アクセラード視点】どうなっているんだ

「おかしい……どうなっているんだ」 何度も来たはずの樹海なのに、今日に限って魔物の気配がおかしい。B級魔物を二体仕留め、その亡骸をマジックバッグの中に収納しながら俺は魔物の気配に意識を集中する。 やはり、魔物が殺気立っている気配がする。 そもそも今日は、転移で樹海に降り立った瞬間からおかしかった。 ザワ、と樹海全体が震えたのかと思うくらいに魔物の気配が色めきだって、魔物たちが動き出すのが分かるほど。 あんな気配、未だかつて経験したことがない。 魔物なんて通常は気配も魔力もうまく隠すもんだ。なんせ見つかればさらに上位の魔物に捕食されて当然なのだから。 上級になればなるほど気配を隠すのはうまくて、いつもは魔物を探すのでさえも苦労する。 なのにあの一瞬、こんなに魔物がいるのかと恐ろしくなるくらい、魔物の気配で溢れかえった。 しかも、一斉にこっちに向かって動き始めたのまで感じられる。 樹海についたら邪魔されることもないだろう、うるさい周囲の人間がいないところでパートナーと今後の動きについて相談しよう。野営地まで歩きながら樹海のことも説明しよう。 そんな算段は秒で消し飛んだ。 掻っ攫うように連れてきたパートナーを肩に担ぎ上げたまま、オレは野営地用にと焼き払った場所までひた走る。 魔物に追いつかれる前に、なんとか彼を安全な場所へと運ばなければ。 俺が野営地に辿り着くのが先か、魔物に追いつかれるのが先か。そんな賭けみたいな気持ちでとにかく走った。 走って走って、行く先に明るい場所が見えた時に正直神に感謝したくらいだ。良かった、なんとか追いつかれずに済んだ。 野営地に結界を張って、ようやく彼を地面に降ろす。急に担ぎ上げられてここまで連れて来られたんだ、きっと訳が分からない上に痛かっただろう。 すまないことをした。 話しかけようとして、えーと、名前……と記憶を辿る。俺は人の名前を覚えるのが致命的にヘタだ。簡単な名前で良かった、と思った記憶は残っているのに、肝心の名前が出てこない。 「なんなんスか、急に……って、ここどこ!!???」 そうこうしているうちに、彼が周囲を見回して慌て始めた。 「フィグテム樹海だ」 「それどこにあるんスか! 聞いたことないけど……え、つーかさっきまで広場にいて」 混乱するのももっともだ。 「ああ、転移魔法だ。ここは上級魔物の巣窟になっているから、ここで手早くBランクを五体倒して、残った時間で海に移動して、できればシーサーペントを」 言おうと思っていたことをなんとか伝えようと口にしたわけだが。 「待って! 待って待って待って……!」 混乱しきりの声で話を遮られる。あまりに一気に情報を詰め込みすぎたか、と反省した。 「上級魔物の巣窟って何? ここ、そんな危険なとこ!?」 「危険だが、周囲をよく見てくれ。結界を張ってある」 「結界……」 結界、という言葉に彼は少し笑ってくれた。その笑顔を見て俺もちょっとホッとする。少しは安心できるといいのだが。 「魔物の解体とかもあるから、結界は大きめに作ってある」 そう話せば少し落ち着いてきたようで、彼は周囲を見回して小首を傾げた。 「なんか、ここだけ木とか下草がない……?」 インフェルノで焼いたんだと説明しながら、俺は周囲の気配を探っていく。明らかにまだ魔物が数体、近くにいるようだった。 「すまんが時間がない。俺は狩に行ってくる」 「は!?」 「さっきも言ったがこの樹海は上級魔物が跋扈している。結界から出たら確実に魔物の餌食だ。絶対に結界から出ないでくれ」 本当は色々と説明したいが、それはあとでもできることだ。まずは、今しかやれないことを済ませなければ。 「それさえ守れば何をしていてもいい。日暮れまでには戻る」 「待って! ちょっ……」 それだけ言い残して、俺は結界を飛び出した。 本当は彼のそばにいて、色々と話しながら理解を深めるべきなんだろう。やっと落ち着いてきたパートナーには申し訳ないが、ある意味今は、千載一遇のチャンスでもある。 魔物がこんなにも気配を露わにすることは、そうそうない。今回の試験では多くの魔物を探すことに時間を費やすだろうと懸念していただけに、見つけることさえできればこっちのもんだ。 これなら魔物を五体狩ることも可能かもしれない。 こんなまたとないチャンスを逃してなるものか、と魔物の気配を追ってひた走る。 さすがは上級魔物で、今度は自分が狩られる側になったのだと悟った途端に気配を消そうとしている。 だが一度大まかな居場所を特定できれば、その周囲に絞って精度の高い探査魔法を行使できる。 「見つけた」 この魔力の高さと体のデカさ。B級以上であることは間違いない。 身体強化を使っているから、今の俺は人ならざるスピードを手に入れている。一気に距離を詰めて魔物の巨躯に斬りかかり、動きを封じたところで喉笛を掻っ切ってトドメをさす。 これくらいの魔物なら、攻撃魔法を使うまでもない。 俺は魔力量はほどほどだから、魔法を無駄撃ちするわけにはいかない。できるだけ魔力を温存しながら、魔力消費が少ない探査魔法で魔物の居場所を特定し物理攻撃で仕留めていく。

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