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第7話 【アクセラード視点】早く結界に入れ!
結界から大きく離れないところに魔物が寄ってきていたおかげで、立て続けにB級魔物を三体も倒すことができた。通常なら一日中探しても二体見つけるのがやっとだというのに、本当にラッキーだ。
いや、ラッキーという言葉では片づけられない。
この樹海に降り立った時、明らかに魔物が殺気立った。常にはないことだ。つまり、常にはないこと……パートナーの彼が一緒だったから、ということか。
そこでふと思い出す。
そういえばヒューが言っていた。彼は膨大な魔力を見込まれて、学長の推薦で特待生として入学したらしい。魔力の発動がまだ体得できていないらしいが、そのハードルを乗り越えれば、きっと一気に能力が開花するのだろう。
「……そうか、もしかして」
その時だった。
「!!???」
ざわ、と全身の毛が逆立つような感覚に、俺は周囲へと視線を走らせる。樹海のそこかしこで、また魔物の気配が一気に高まっていた。
「これは……まさか!」
俺の懸念を肯定するように、気配がひとつの方向に向けて一気に動き出す。
「くそっ……!」
やっぱり、魔物の気配が結界の方に向かっている気がする。俺も結界の方へとにかく走り出した。
勘違いであればいい。だが、本当に彼に危険が迫っているのなら、なにがなんでも魔物たちよりも早く帰らなければ。
とはいえ樹海の中では魔物たちに地の利がある。必死で走りながら身体強化を重ね掛けして速度をあげ、走って走って開けた空間に躍り出る。
もう魔物の気配がそこまで来ている。
周囲を見回した俺は目を疑った。
パートナーの彼が、結界の外でのんきになんか小枝を拾っていたからだ。
「何してる! 早く結界に入れ!」
叫びながら、彼の元へと走った。
彼はびっくりした顔で振り返る。頼む! いいから結界の中に入ってくれ!
「くそ……っ」
驚いた顔で俺を見ている彼の動きを待つより、多分俺が突き飛ばしてでも結界の中に押し込んだ方が早い。
間に合え! 間に合え!!!
念じながら走る時間は多分一瞬だっただろう。けれど、ものすごく長い時間に感じた。
彼の体を思いっきり突き飛ばしたのと、巨大な魔物が彼に襲い掛かったのは、多分ほぼ同時だった。
すんでのところで彼の体は魔物の爪を逃れて結界の中へと転がり込む。
急に獲物が消えて爪が空を切り、わずかに体勢を崩した魔物へは特大の火球をぶち当ててやった。
「グゥルルルル……グガァ!!!」
魔物は苦し気なうめき声をあげているけれど、致命傷には至っていない。
俺は剣を抜いて、おもむろに魔物に斬りかかった。
さすがに樹海だけあって、ちょっと結界から出て足を伸ばせば素材がわんさか採取できる。焚き木になりそうな乾いた枝はもちろん、オレなんかじゃ通常お目にかかれないような植物系素材がそこかしこにあって、オレは目を輝かせた。
今夜の鍋に入れても良さそうなキノコやハーブなんかもあって、最強魔法騎士様が獲ってきてくれるだろう魔物の肉もうまく調理できそうだとウキウキする。
なのに。
「何してる! 早く結界に入れ!」
突然怒鳴られて反射的に振り返ったものの、びっくりしてる間に結界の中へと突き飛ばされた。
突き飛ばされる直前に、一瞬何か黒い影が飛び出してきた気がするけど、あっという間に突き飛ばされて勢いよく転がったオレには視認できなかった。
ごろごろと転がってる間に聞こえてきたのは爆発音。
恐ろしい獣の咆哮。
最強魔法騎士様の雄叫び。
肉を斬るような鈍い音。重たいものが倒れるような地響きと重い振動。
「な……何?」
やっとのことで起き上がったオレが見たのは、倒れていてもなお見上げるようなデカい魔物と、ソイツを踏み台にして次の魔物に斬りかかっている最強魔法騎士様の、鬼神みたいな姿だった。
「うそ……」
あんな、自分よりもはるかにデカい魔物に躊躇なく立ち向かっていくのもすごいし、魔法じゃなくて剣で戦ってるなんて、本当に信じられない。
すでに魔物を一体倒して、もう一体と交戦中の最強魔法騎士様の姿に、ただただ呆然とするしかない。
手助けしようなんて気持ちは微塵も浮かばなかった。
だって、あんなのとてもじゃないけど手をだせない。
剣だけじゃ仕留められなかったのか、魔物の眼前で爆発系の魔法をぶっぱなし、それで動きが一瞬とまったところに剣で容赦なく斬りつける。人間って、あんな魔物と渡り合えるんだ……って震え上がった。
オレから見たらもはや異次元の戦闘で、かたずをのんで見守っていたら、最強魔法騎士様はとうとう二体目の魔物も倒してしまった。マジですごい。
さすがに肩で息をしてるけど、それでも特にケガをしている様子もない。
たったひとりで、しかも無傷で、あんなでかい魔物を倒してしまうなんて。とても現実に起こったことだとは思えなくて最強魔法騎士様をぼーっと見ていたら、急に彼がギッ! とこっちを睨んできた。
「ひえっ……」
眼力が凄すぎて、思わず身が竦む。
一瞬で結界の中に入ってきて、オレの目前に立った最強魔法騎士様は、いきなりこう怒鳴ってきた。
「なんで結界の外に出た! 結界からは出るなと言ってあっただろう!」
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