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第9話 最強魔法騎士様はやっぱり最強すぎるんじゃん

「ああ、B級魔物を三体倒したところで今日はもうやめておこうと思ったんだが、結界近くでさらに二体倒したからな。よく魔力が保ったほうだと思う」 「ひえ……」 だから剣で戦ってたのか。余裕あるなぁと思ったら、余裕がないからこそのあの戦い方だったとは。 ていうか。 結界近くで倒した魔物だって明らかに上級の魔物だったぞ? 「えっ、待って、もしかしてB級魔物を今日だけで五体倒したってこと!?」 最強魔法騎士様はやっぱり最強すぎるんじゃん。もう生きてる次元が違う。驚愕するオレに、最強魔法騎士様は小さく微笑んで見せた。 「ああ、こんなに魔物に遭遇できるとは思わなかった。幸運……ではないか、不本意だろうと思うが君のおかげだ」 「へ?」 最強魔法騎士様が不思議なことを言う。オレのおかげとか意味分からん、と思いながら首を傾げたら、そう考えるに至った出来事を丁寧に教えてくれた。 話を聞くごとに自分の顔が青ざめていくのが分かる。 「え、じゃあ、この樹海の魔物……本当にオレを狙ってるってこと?」 何それ、怖すぎる。 オレが結界から一歩外に出ただけで、樹海中の魔物がオレに向かって動き出すとか尋常じゃないだろ。なんでそんなことになってんだよ。オレ死亡確定じゃん……! 「な、なんでそんな」 さっきの魔物を思い出して、声が震える。あんなんが群れをなして襲ってくるとか、怖すぎるだろ。 「これは推測だが、君の今の状況が関係してるんじゃないかと思う」 「何それ」 「君はその、魔力は大量に保持しているが、発動がうまくいかないのだと聞いた」 それは間違いない。最強魔法騎士様にまでオレの切ない現状が知られていることを情けなく思いながら、小さく頷く。すると、彼は気まずそうな顔をしつつこう言った。 「魔物は通常、魔力が多い獲物を好んで捕食して自らの力を高めていくんだが、それにはもちろん身の危険もあるわけで、自分との力量との兼ね合いで隙を狙ったり逆に魔力や気配を隠したりするんだが」 「……」 そう聞いてさすがに理解する。 「つまりオレは、魔力がすげえあるのに弱っちい上に魔力も隠せてないから……めちゃくちゃ美味そうなエサに見えてるってことか……」 そりゃ言いにくそうにもなるわけだ。 「多分、我を忘れて群がりたくなるくらいには魅力的に見えてるんだろう」 そんなモテ方は嫌だ……泣ける。 「君の状況にも気づかず、こんなに上級魔物がうようよいる場所に了承すら得ず安易に連れてきてしまって本当に悪かった。責任はとる、絶対に無事に連れて帰るから」 殊勝な態度で頭を下げられるけど、意見を聞かれたところで困っただろう。オレは淹れたてのコーヒーを手渡しながら苦笑する。 「オレだってまさか魔物から美味そうなエサだと思われるなんて考えたことなかったし、しょうがないと思うけど。でも、そう言われればクエストに出た時も、皆から話に聞いてたより強そうな魔物との遭遇率が高い気はしてたんだよなぁ」 「……! よく無事だったな。力量差が大きいほど君の魔力に惹かれて出てきただろうに」 驚いたように言ってから、最強魔法騎士様はちょっとだけ間をおいて納得したような顔になる。 「……そうか、魔術学校の近くならC級以上の魔物は存在しない。しかしD級でも魔法なしではかなり手こずる筈だが」 さすがは最強魔法騎士様、よく分かってる。そう、D級の魔物までなら、俺だって倒したことがあるんだ。 「オレ、これがあるから」 グローブに嵌め込んだ魔法石を見せたら、最強魔法騎士様はちょっとびっくりした顔をした。 「魔法石か」 「そう。オレが命の次に大事にしてる、オレの唯一の武器」 まだ3個しか買えてないけど、それでもこの石たちがあったから、オレは死なずに済んだ。 「そうか……! 君は魔力が豊富だから、魔法石に魔法と魔力を溜めておけば必要な時に魔法として発動できるのか!」 「つっても、低レベルの魔法しか入ってないんだけどな」 そう言ってウォーターとファイアを起動して見せる。 「今はこれが精いっぱい」 「ウォーターとファイア? まさかそれでD級と渡り合っているのか? ちゃんとパーティーを組んでいるんだろうな」 不安げとも不審げともとれる顔でそう聞かれるけど、パーティーなんて組んだためしがない。 「ソロに決まってるじゃん。魔法が発動できないって有名すぎて、パーティー組んでくれなんて言えないよ。それに、使いようによっちゃあ初期魔法でも充分勝てるんだよ」 「なるほど。……興味深いな」 そう呟いて、最強魔法騎士様は何か考え込んでいる。いったい何が興味深いんだか。学年トップの猛者の考える事なんてオレに分かるはずもない。 しばらく考え込んでる最強魔法騎士様の顔をぼんやり見てたけど、そのうち飽きてきた。 「さいきょ……あ、えと、魔法騎士様」 やることなすこと最強すぎて、ついつい心の中で『最強魔法騎士様」呼びしてたけど、本人にそういうわけにもいかない。けど、名前は聞いたけど忘れたし。仕方なく通り名で呼んでみたら、最強魔法騎士様はめちゃくちゃ微妙そうな顔をした。

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