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第10話 常識が違いすぎて
「なんだその魔法騎士様って。まさか俺のことじゃないだろうな」
そんな嫌そうな顔しなくても。
「そうだけど。ていうか、皆からそう呼ばれてるんじゃ?」
「そんな変な呼び方、されるわけがないだろう」
「マジで!? 通り名だと思ってた……!! 魔法もバリバリに使えて騎士みたいに剣技もすごくて、通り名の通り最強だなーって思って、オレなんてなんなら心の中ではさらに『最強』までくっつけて、『最強魔法騎士様』ってめちゃくちゃ呼んでたんだけど」
「やめてくれ……!!! 俺は最強なんて言葉からも騎士なんて言葉からも程遠い」
「またまたご謙遜を」
「謙遜ではない。そもそも俺にはアクセラードという名がある。せめてそっちで呼んでくれ」
「アクセラード様……」
さすが貴族。名前が長い。
そう思ってしまったのがバレたのか、アクセラード様は片眉を上げてから「アクセルでいい」と言ってくれた。
「長いといざと言う時に呼びにくいからな。ちなみに君のことはなんと呼べばいい?」
「普通にイールでいいけど」
「そうか、ありがとうイール」
なんのお礼か分からん。
でも、ちっちゃな声で「イール、イール……」って呪文みたいに呟いてるから、多分最強魔法騎士様……アクセル様もオレの名前を忘れちゃってたんだろう。なんだか親近感を感じる。
でもとりあえず簡単な呼び名を交わしたことで、オレはちょっとだけ最強……アクセル様との距離が縮まった気がして嬉しかった。
「すまん、そう言えばイールは何か言いかけていたな。遮って悪かった」
ホント貴族な上に人外かって思うくらい強いのに、いちいち丁寧で気にしぃな人だなぁ。どう育てばこんなに立派になれるんだろ。あんまりオレと年も変わらなそうなのに、人間ができてる。
もはや羨ましいという気すら起きない。
「あ、えっと飯作ろうかと思って。最……アクセル様ならきっとたくさん肉をゲットしてきてくれたんじゃないかと思ったから、野菜とかだけ用意しといたけど」
「……ああ、肉の旨さに定評のある魔獣も狩ったから、さっそく解体しよう。しかしすごいな。イールは野菜もこんなに持ち込んだのか?」
「せめて飯くらい美味いもの食いたいと思って。ちょうどクエストの報酬が入ったし」
「ありがとう、俺は野営のことまではあまり考えていなかった」
その言葉に驚愕する。
「え、まるまる二泊三日あるのに!?」
「そうだな。これまでは夜は邸に帰っていたから、野営という概念があまりなかった」
「くそー、転移できるからか……!」
「だが、たしかに途中で学園に戻ったり街や村に立ち寄ることは禁じられているな」
「そうだよ。ご飯とか寝る時とか、どうしようと思ってたんだよ。野菜どころかまさか寝袋も持ってきてないとか言わないよな?」
「飯は魔物を狩ればいいと思っていたし、二日くらいは仮眠でいいと思ってた」
「仮眠!? せっかくこんな立派な結界作れるのになんで!???」
思わずデカい声が出ちゃった。だって、何もかもが規格外っつうか、常識とはかけ離れたことばっかで、さすがにキャパオーバーだ。
アクセル様はなんとも微妙な顔でオレを見て、小さな声でこう言った。
「こんなに簡単に魔物が現れると思っていなかったんだ。B級を五体も狩ろうと思ったら、昼夜樹海を駆け回って探すほかないだろうと思っていた」
「あー……なるほど。寝る暇ないと思ってたわけか」
「まさか初日で……しかもまだ日が暮れかけ、程度の時間にこんな数を狩れるとはさすがに想定外だった」
「とりあえず分かった。で、結局アクセル様は野宿についてはあんまり知識もなくて、ついでに寝袋とかの準備もないってことね」
「すまない……火の番でもしているから気にしなくていい」
「冗談言うなよ、こんな時こそ助け合いだろ。ていうか、オレでも役に立てることがあって良かった」
「?」
「アクセル様は寝袋はなくても素材は山ほど持ってる。ないものは作れば良いんだよ」
「寝袋をか?」
「寝袋っていうか布団の代わりになるもの? とりあえず今日狩った魔物、見せて貰ってもいいかな」
「分かった」
アクセル様はオレに言われるまま、素直に魔物をマジックバッグから取り出していく。
「……」
出てくる魔物はいちいち信じられないくらいでデカくって、死んでるって分かっててもただただ怖い。こんなとんでもない魔物を倒して涼しい顔してるくせに、オレみたいなへっぽこにも謝ったり素直に言うこと聞いてくれたり、アクセル様って不思議な人だな。
「どうした? 今日狩ったのはこれで全部だが、必要なら以前狩ったものも出せるが」
「いや、大丈夫!」
これ以上出されても結界内が魔物でパンパンになっちゃいそうだし。ていうかやっぱりアクセル様ともなると換金せずにマジックバッグに入れたままになってる魔物とかあるんだ。
オレなんかいつも金欠だから、すぐにギルドで換金しちゃうけど。
「ちなみに肉が美味いのってどれ?」
「このギガントボアが確実に美味い」
「なるほど。じゃあ、それとこの鳥っぽいのでふとん作れそう」
「本当に? 考えた事もないが、すごいな……」
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