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第11話 アクセル様の野望
「まぁ布団ほど寝心地は良くないけど、座ったまま仮眠するよりは体が休まると思うし、明日以後のことを考えると……」
そこまで言って、ふと疑問に思った。
「あれ? もしかしてもう帰る? 目標のBランク魔物五体、もう狩ったんだよな?」
早く帰る分には別に禁じられていない。帰り着いた時点で終了したとみなされるだけだ。Bランク魔物を五体も倒した記録があれば、どう考えたってぶっちぎりの一位。もう帰ったっていいのかもしれない。
そう思ったのに。
「いや、せっかくだ。明日以後は場所を移してもっと上位の獲物を狙う」
「もっと上位!!???」
アクセル様はさらっととんでもないことを言い出した。
「父上からBランク五体、と言われるまでは出来ればAランク魔物に挑みたいと思っていたんだ。まだあと二日ある。このチャンスを逃したくない」
「いやいやいや、それは別に今じゃなくても良くない!!??」
せめてオレがいないとこでやって!!!!
「だが、この試験で強力な魔物を狩ればギルドでのランクアップにボーナスがつくだろう」
「いや、Bランク五体でもボーナスめちゃくちゃつくでしょ!? ていうかアクセル様でもギルドのランクなんか気にするんだ」
「気にするに決まっている。冒険者ギルドでAランクになれれば冒険者として身をたててもいいと言われているからな、絶対にAランクに上がりたいんだ」
「えっ、アクセル様冒険者になりたいの? アクセル様くらい実力あれば王宮魔術師も推薦でいけるっしょ?」
「王宮魔術師になど絶対になりたくない。さっきのライエンやテラード教諭の態度を見ただろう」
「あー……なんか目の敵にされてたっぽいけど」
「騎士団と魔術師団は犬猿の仲だ。俺の家系は代々騎士団長を輩出しているから、王宮魔術師たちからしてみれば俺は目障りな存在なんだろう」
「実力があればそんなの関係ない気がするけど」
「世の中、君のようにおおらかな人間ばかりではないからな。実際、俺は父や兄からも疎んじられている。剣に才能を発揮できず魔術などを極めようとしていることが腹立たしいんだろう」
「本気かよ。こんなに実力があるのに、ちゃんと認められないなんて、マジ意味わかんねぇけど」
「本気だ。俺の家では剣術の才以外は無用の長物で、魔術の才に至っては忌々しいものでしかない」
「はぁ~失望するね。国の中でもトップに位置する機関の人間が物事をひん曲がって捉えてるなんてさ」
「まったくだ。そんな中に入るより、俺は腕一本で民を守る事ができる冒険者として生きていきたい」
「賛成。アクセル様ならエグい魔物をゴリゴリ倒せるすげぇ冒険者になれること請け合いだしな」
「ありがとう。そのために、俺はなんとしてでもA級のライセンスが欲しいんだ」
「……」
そうだった。そこに直結するんだった。
王宮魔術師になったところで同僚からは嫌がらせされ、家族も喜んでくれない。多分それは、魔法学校の教員も含め血筋だのなんだのにこだわる頭の堅い魔術師がたくさんいるところならどこでも一緒なんだろう。
魔術に関わる機関なら大なり小なり同じ。それなら実力だけでのしあがれる冒険者になったほうがいい。オレだって応援したい。
でもなぁ。Bランクの魔物だってあんなに怖いのに、Aランクとか……オレ、生きて帰れるんだろうか。
「……とりあえず、飯食って寝よ。そっちの魔物の解体、お願いしていいかな……」
オレはいったん、考えるのを放棄した。
アクセル様はでっかいギガントボアを、オレは名前を聞き損ねたよくわからん鳥の魔物を、それぞれ黙々と解体して、最終的にはとんでもない量の肉と、毛皮と羽毛、その他諸々の素材をゲットした。
「腹が減っては戦はできぬって言うしね、まずは飯かな」
「焼けばいいか?」
「ちょっと待って!?」
そこそこデッカい塊肉をそのまま焼こうとするの、なんで!?
「え、いつもこんな感じなの……?」
おそるおそる聞いたら、真面目な顔で頷かれた。
「動ける程度に腹が膨れればいい。周りから焼けてくるから、ナイフで削りながら食っていたが」
「ワイルド過ぎるでしょ……!!!」
なんでもできるスゴイ人だと思ったのに、生活においてはからっきしだった!!!
「今は家に帰ればすげぇ飯が勝手に出てくるんだろうけどさ、そんなんじゃ冒険者になったら体壊すぞ。どうするつもりだったんだよ」
「夜は街に帰ろうと思っていたが……」
「あ、転移か」
しかもあんなゴツい魔物、ホイホイ狩れるんだもんな。金の心配もないだろう。
ちくしょう、実力があれば野宿スキルすらなくても快適、安全に冒険者できるのかと遠い目になってしまう。
ところが、アクセル様はしばし黙考したあと、なぜかオレに頭を下げてきた。
「すまん、君は詳しそうだ。俺にも食事の作り方や野宿するときに必要なスキルを教えて欲しい」
「いいけど……どうして急に」
「よく考えたら今後は必要になるスキルだ。転移はかなり魔力を使うし、一日に二度が限界だ。しかも二回も使えばそれ以外の魔術を使う余力があまりない」
「えっ!!?? 今までどうやって魔物やっつけてたんだよ」
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