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第12話 オレが教えるしかない
「身体強化をかければある程度の魔物は剣だけで倒せる」
「……!!!」
魔術師の口から出たとは思えない言葉に絶句する。
だから、それは普通に騎士よりもスゴイんだって……!!! そもそもB級魔物は『ある程度の魔物』じゃないからね!?
「それだけすごくて、親や兄ちゃんが認めてくれないっての、マジ意味分かんないんだけど」
「肉体強化がなければ父や兄の方が強い。俺のは魔術で上げ底しているだけだから、父や兄には卑怯な手段だと叱責を受ける」
「うわ、相手の力量を素直に認められないとか、子供かよ。戦場でそんな綺麗事が罷り通るわけねぇだろ。身内をけなして悪りぃけどさ、魔法も剣も両方使える結果、べらぼうに強くなっちまったアクセル様に嫉妬してるだけなんじゃねぇの」
呆れてついつい本心をありのままに呟いたら、アクセル様は小さく笑った。
「母にはそう言われる。母は凄腕の魔術師なんだ」
よくそんな父ちゃんが魔術師の母ちゃんと結婚したな。結婚までの経緯が気になりすぎる。
でも、もちろん余所様のそんな事情においそれと踏み込むつもりはない。
「あー、母ちゃんからの遺伝なんだ。ま、でもそういう事ならもうバンバン野宿して、立派な冒険者になってどっか好きな土地で暮らせばいいよ。野宿のノウハウくらい、オレが教えてやるし」
「ありがとう」
強面な顔が嬉しそうにほころんで、こっちもつい笑顔になる。
最初はどうなる事かと思ったけど、アクセル様とは二泊三日、なかなかうまくやれそうだ。
「じゃあ、早速一緒に飯作ろうぜ!」
持って来といた野菜をざく切りにして、ジャガイモをくるくるっと皮を剥いたらアクセル様がめっちゃびっくりした声を出すからこっちがびっくりした。
「な、なんだその曲芸のような動きは……!」
「大げさだなぁ。厨房の人ならだいたいできると思うよ」
「本当に? すごいな……」
「一般的にはアクセル様の方がすごいことしてるんだけどね。まぁとりあえず一緒にやってみよう。肉削って食ってたんならナイフは使い慣れてるんじゃない?」
「ナイフはあんまり得意じゃないな。剣だとデカすぎて邪魔になる時に使うだけで、解体も殆ど剣でやるしな」
「あー……獲物もデカいのばっかだもんね……」
「ああ。面倒なときはギルドでやってもらうしな」
「そっかー、オレなんか解体料が惜しくて自分でばっかやるから、けっこうナイフ使うの得意になっちゃったな」
「上級の魔物になると、解体を失敗すると素材の価値が下がるものも多いんだ。俺はあまり器用じゃないから、金払ってやって貰った方がマシなんだ」
「ふぅん」
確かにジャガイモ握る手がプルプルしてる。
意外すぎて色々びっくりなんだけど。
「あ、でもちょっとずつ手の力が抜けてきたかな? ……うわ!」
「っつう!」
「うっわー結構ざっくりやったな」
「問題ない。この程度のケガは頻繁にある」
まぁ、そう言われればそうなのかもしれない。魔物の討伐をしていれば、この程度のケガはむしろ軽傷ではある。
「それにしても、あんなゴッツい魔物を五体も倒してケガひとつなかったのに、まさかジャガイモでこんなケガするなんてな」
「ジャガイモの方が手強かった」
真面目な顔で言われて、思わず笑ってしまった。
「とりあえず治癒魔法使った方がいいんじゃ? 結構血が出てる」
「もう魔力がない」
「マジか。うーん、ごめんな。やっぱ防護石より治癒石買ったほうが良かったなぁ」
散々迷った末の決断だったけど、こんなことになると後悔してしまう。仕方ない、アクセル様の前で魔術使うのマジで恥ずかしいんだけど、やってみるしかねぇよな……。
「うまく発動できるかわかんねぇけど、オレがやってみる」
そう決意してアクセル様の手を取った。
「すまない……」
アクセル様くらいすごい人になると遠距離からでもやれるんだけど、オレなんて患部に直接手を触れるやり方しかできないし、それだって何回に一回かしか発動できない。マジで情けない。
二、三回失敗してる間に結構血が滴り落ちてきて、どんどん気持ちが焦ってくる。
「ごめん、アクセル様、オレ」
「いや、申し訳ないがもう一度やってみて貰えるか? ちょっと試したいことがある」
痛そうなのになかなか魔法が発動できなくてちょっと涙目になるオレに、アクセル様が穏やかな声でそう言ってくれた。
「……?」
よくわかんねぇけど言われるままに治癒を唱えてみたら、やっぱり発動しなくてがっかりする。なのに、アクセル様はちょっとびっくりしたみたいに、でもなぜか嬉しそうにこう呟いた。
「あ、できた」
「? なにが?」
「魔力を吸えた」
「は?」
「自力でできる」
ぽつりぽつりと言ったあと、ふわっとアクセル様の手が光って一瞬で傷が癒えた。
「ふぁっ!?」
「ありがとう。イールのおかげで魔法が使えた」
「微笑まれても意味が分からん! どういうこと!?」
「ああ、すまない。実はさっき治癒を施そうとしてくれた時に、君の魔力が身体の中に流れてきてる感じがして、受け取れないか試してみたんだが」
「受け取るって」
「魔力譲渡という魔術があるというのは聞いたことがあるか?」
「噂では。でもそれってカリキュラムには含まれてないよな?」
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