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第33話 【アクセラード視点】兄上には……負けません!

衝撃波のような気が防護壁を打ち破ると同時に、目前に兄の剣先が迫る。技に溺れず追撃を欠かさない、確実に勝ちをつかみに来る……兄らしい貪欲さ。 「……!」 「アクセル様!」 イールの叫び声が聞こえる。大丈夫だイール、心配は要らない。 俺は、一瞬で巨大な魔力を練り上げた。 分厚く強固な土壁をさらに防護結界で固めれば、少ない魔力で剣も巨大な刃も通さない。 「くっ……卑怯な!」 悔しげな声を聞きながら、土壁を登り上がり、頭上から兄上に斬りかかる。 「ッ」 瞬時に気配を察知したらしい兄上がすんでのところで俺の剣を受け止める。 「くそっ、なんで貴様ごときに……!」 兄上が呻くように呟いた。下に見ていた俺に手こずっていることがよほど悔しかったんだろう。 「兄上には……負けません!」 俺は人生初の啖呵を切った。 「珍しく、吠えるではないか!」 怒りの表情を浮かべる兄上を見ながら、俺は大魔法の使いどころを必死で考える。母上の言う通り、俺の魔力はそう多くない。細々と魔法を使い続けたら、いずれ大魔法さえ使えなくなるだろう。 今ならまだ、中級の魔法ひとつと、大魔法ひとつならいける。 その連携で、なんとか決着をつけてしまいたい。 兄上が俺に斬りかかってくるのを防ぎながら詠唱する。これまでの経験で、戦いながら詠唱するのも慣れていた俺には造作も無いことだ。 身体の中に魔力が満ちて、突き抜けるような感覚と共に魔力の塊が頭上に高く登っていく。頭上で燦然と輝いた魔力が、一斉に光の矢となって降り注ぐ。 兄上は剣で防ごうと思ったらしいが、次々に降り注ぐ光に剣が弾かれ、その勢いで体勢を崩したところに矢継ぎ早に光の矢が降り注いでいく。 「ぐはっ!!」 兄上の体が吹っ飛ぶと同時に、立て続けに轟音と兄のうめき声が聞こえた。どうやら俺の攻撃は無駄にはならなかったらしい。 もう大魔法一回分の魔力しかない。これしきの攻撃で勝てる相手ではないはずだ。今たたみかけるしかない。 「く……負ける、ものか……!!!」 よろめきながら起き上がってきた兄上の手にはしっかりと剣が握られている。 「アクセル様、絶対に勝てる!!!」 イールの声援が聞こえる。 勝てる。 そうだ、今ならば、きっと勝てる。 これまで兄上に勝てるなんてこと、考えたことすらなかった。いや、俺はもしかすると、怖かったのかも知れない。 剣術の優劣こそがすべてだと教えられてきたこの家系で、もし魔法を操る俺が父や兄を超えるようなことがあれば、一族の矜恃を自らが傷つけることになるような気がしていたのだろう。 騎士の道を歩まないのだから、魔法で頭角を現さねばならない。そう思うのに、魔法で剣を上回る成果を上げることが怖い。 そんなジレンマが、無意識に俺自身を縛っていたのかもしれない。 「アクセル様! 頑張れ!!!」 「任せろ」 イールの声援が心地良い。何でもできる気がしてくるから不思議だ。 立ち上がってきた兄上は一見よろめいて見えるけれど、俺を油断させるための演技に違いない。兄上ほど体力、気力のある人が、あれしきの攻撃で深いダメージを負う筈がないんだ。 「兄上ほどの方を倒すには、俺が使える最大の魔法をお見せするほかないと思います」 「く……やってみろ! てめえごときのチンケな魔法なんざ怖かねぇんだよ!」 兄上が吠える。 剣を片手に仁王立ちする兄上。 俺ごときの魔法など恐るるに足らず、と豪語するだけはある。 こんな機会はきっと二度と無いだろうし、兄上はもちろん、父上、母上にも俺が今使える最高の魔法をお目にかけたい。 俺は剣を鞘に収め、両の手に魔力を溜めていく。 左手には雷。 右手には炎。 ありったけの魔力をかき集め魔力を練れば、すぐに左手の雷は巨大な塊となってバチバチと激しく光を放ち、右手の炎はごうごうと唸って渦を巻くように踊っている。 「な、なんだ……なんだソレは……」 「見ての通り雷と炎です。魔法はこれまで兄上の前では控えていたのですが、せっかくなので俺が使える中でも一番難易度が高くて威力も高い魔法をお目にかけようと思って」 この規模の魔法を見るのは初めてだったのか、兄上は呆然と俺の両手に生成された炎と雷を見つめている。 成長を始めた火球と雷は、もう俺の魔力を必要とせずにどんどん大きくなっていく。右手には早くもひと抱えもあるほどの燃え盛る業火が爆誕しているし、そして左手の雷は激しい閃光を放ってスパークしはじめている。 二つの強力な魔力に周囲の空気が煽られるのか、俺の髪も服もバタバタとはためいていて、そろそろ制御が難しくなってきた。 「そろそろ撃ちます」 「ま、待て!!! まさかそれ、俺に撃ち込むつもりじゃないよな!?」 「そのつもりですが」 「人間に撃っていい魔法じゃないんじゃないか!!???」 「兄上は幼い頃から神かと思うほど頑丈で身体能力が高いので、この程度なら問題ないのでは?」 言いながら雷を頭上に放てば、恐ろしい音を立てながら雷雲が湧きおこった。すかさず右手の炎で修練場の石床に魔法陣を描こうとした瞬間。 「待て!!! 待て、待て、待てって!!!」 「そこまで!!!」

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