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第39話 翌日の魔術学校

「ていうか一緒に登校したんだ。仲良くなったんだな」 ウインクするルタムにオレは若干赤くなって、アクセル様は深く深く頷いた。 「最高のパートナーだった。イールのおかげで想定よりもかなり素晴らしい成果が上げられたと思う」 「やったじゃんイール! 役に立てたんだな!」 至極真面目な顔でそんな事を言うアクセル様の言葉を疑うこともせず、喜んでくれるルタムに嬉しくなった。ちょっと涙でそう。 そこに、新たに駆けてくる足音が聞こえる。 「ようアクセル! やっぱりぶっちぎりの一位だったな!」 声をかけてきたのは、ヒューさんだった。その隣には、彼とパーティーを組んだライエン様もいる。ライエン様はヒューさんの後ろに隠れるようにして、悔しそうにオレたちを睨んでいた。 「ヒュー、お前たちは?」 「ああ。卒業試験は二位通過だ。さすがにあのBランクのスカリーベアを仕留めるのがやっとで、あれ以上の大物は無理だった。でもかなりいい評価を貰えたよ」 「そうか、良かったな。たった二人でスカリーベアを倒せるほどの実力を持っている人材は稀だ。素晴らしい成果だと思う」 「だよな! まぁシーサーペントを倒しちゃうアクセルとは比べモンにならないんだけどな」 「比べるようなモノでもないと思うが……それに俺だけの力ではない。イールがいなければ無理だった」 アクセル様はヒューさんにそう返すと、ちらりとオレの方を向いて微笑んでくれた。そう言ってくれるのは嬉しいけど、ぶっちゃけオレは魔力を補充しただけなんだよね。 「ま、だよなぁ。確かに、イール君がいなかったらあんなに上級魔法打ち放題なんてことはできないもんなぁ」 「え、どういうこと?」 ヒューさんがしみじみと呟くもんだから、ルタムが不思議そうに尋ねる。オレが口を開く前に、アクセル様が答えてくれた。 「イールがふんだんに魔力を補充してくれたから、上級魔法を連発できてシーサーペントを倒すことができた、という話だ」 「魔力の補充!? そんな事ができるの? 初めて聞いたんだけど」 「俺も書物でしか知らなかった。幻と言われる魔法だが、俺とイールの魔力の相性がとんでもなく良かったのか互いの間では簡単に魔力の受け渡しができるようだ」 「オレ、魔力だけは大量にあるから、思いがけず役に立てたんだよね。良かったよ、ちょっとでも役に立てて」 「ちょっとどころか、イールがいなければさすがにシーサーペントは討伐できなかった」 ルタムは目を丸くしてオレとアクセル様を交互に見つめ、信じられない、といった表情で固まっている。 それでも、ひとしきり驚いてから落ち着いたルタムは朗らかに笑ってくれた。 「そっかぁ、何にせよ良かったな。イールだってずっと頑張ってたんだ、最後の最後にこんな幸運恵まれたなら、頑張った甲斐があるじゃんか」 バシン、と背中を叩かれて、背中も胸もジーンと熱くなる。ルタムは本当にいいヤツだ。 それからも教室に着くまで色んな人に話しかけられた。 いつもはオレを馬鹿にしたり、存在すら無視したりする同級生たちまでもが、今日はオレにこぞって話しかけてくる。 「おい、イール。昨日、本当にシーサーペントを倒したのか?」 隣の席の、いつもオレをからかってくるヤツが、信じられないといった顔で小声で尋ねてきた。 「うん、それは本当」 「やっぱ、本当だったのか……」 「といっても倒したのはアクセル様で、オレはたいしたことしてないけど」 そう言った途端、そいつはしかめっ面をした。 「そういうの、やめた方がいい」 「そういうのって……」 「あの魔法騎士がお前を認めてたって聞いたぞ。お前がいたからシーサーペントを倒せたって」 「あ、まぁ、それはそう言ってくれてたけど」 「あの人、世辞とか言う人じゃないらしいし、べた褒めしてたっていうから、本当にそう思ってんだろ。あれだけの実力者に認められて、シーサーペントの討伐でも力を発揮したヤツが、ヘタに謙遜するとイヤミに聞こえるからやめとけって言ってんだよ」 そいつは、それだけ言うと渋い顔で黙ってしまった。 オレはその横顔を見ながら不思議な気持ちになる。今までみたいにからかうわけでもなく、シーサーペント討伐を疑うわけでもなく、興奮したように色々聞いてくるわけでもない。 なんとも微妙な反応だ。 こういう反応の人は一定数いて、凄いじゃないかって褒めてくれる人、嘘つけ、って疑ってかかる人、アクセル様のおかげで得したな、ずるいって言ってくる人と様々だけど、こんな感じで微妙な反応の人も多かった。 きっと、今までのオレの落ちこぼれ加減を知ってるだけに、複雑な心境なんだろう。 正直オレも複雑な心境だもんな……。 そんな気持ちを持っていながら、オレに忠告してくれたことにありがたく思いながら、オレは心の中でそっと礼を言ったのだった。 その日の昼休みは、色んな人に話しかけられながらルタムと飯を食っていた。すると、ヒューさんが声をかけてくれる。 「よ、イール君。一緒に飯でもどうだ? アクセルもそこにいるし」 ヒューさんの指差す方向を見ると、校内の庭園のベンチに、アクセル様が一人で座っているのが見えた。

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