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第40話 何したらあんなに懐かれるわけ?
「え、いいんですか?」
「敬語はやめろって。あいつ、卒業試験のことで校長に呼ばれたりしててさ、なんかちょっと疲れてるみたいだから、イール君に慰めてもらおうかなと思って」
「それはむしろゆっくりさせてあげた方がいいんじゃ」
「ま、いつもはそうしてたんだけどね。イール君呼んで来ようか?って言ってみたら、見たことないくらいいい笑顔で頷くもんだから。イール君、何したらあいつにあんなに懐かれるわけ?」
「いや、懐かれてはいないと思うけど」
「いーや! あいつがあんなに表情豊かになったの初めて見たし。イールはすごい、って今日何回聞いたことか」
「ホントに何したんだよ」
あんまりヒューさんが力説するもんだから、ルタムがびっくりしてる。でも、本当にたいしたことしてないと思うけど。
「たまたまオレの魔力がアクセル様と相性が良くて魔力量も多いだけで」
「それだけじゃないだろ。あいつ、イール君のおかげで家族に認めて貰えたって言ってた。あいつの脳筋家族が考えを変えるなんて、何やったわけ?」
「やったのはオレじゃなくてアクセル様ですって! アクセル様がお兄さんと魔法もありでガチで勝負してコテンパンにしたんです」
「マジか。ってかそれがそもそもオカシイんだって。あいつがあのお兄さんに逆らって魔法も使って勝負するってのが信じられない」
その言葉に、ヒューさんもあのアクセル様の面倒くさい父子を知ってるんだな、と遠い目になった。
「オレは、一回本気でお兄さんと戦ってみればって言っただけ。あんまりアクセル様のことも魔法のこともバカにしすぎだし、ムカついたからちょっと煽ったら、本気の手合わせをすることになって」
「やるなぁ」
「うわ、魔法騎士様のご家族ってそんな感じなんだ……」
びっくり顔のルタムに、オレは神妙な顔で頷いた。
「母ちゃんはびっくりするくらい美人で、アクセル様のこともしっかり認めてくれてるみたいだったけど、父ちゃんと兄ちゃんはなんか騎士至上主義みたいな感じだった。約束通りBランクの魔物を五体も討伐したのに冒険者になる事も許さないとか言ってさ、オレ我慢できなくて」
「Bランク五体!? えっ、シーサーペントを倒したって話じゃなかったっけ?」
「その前にBランク五体倒してるんだよ。ちなみにそっちはアクセル様だけで倒した」
「うわ、えげつな……」
オレとルタムの話を黙って聞いてたヒューさんは、「なるほどな」と相槌をうったものの、ちょっと考えるような素振りでオレを見つめる。
「でも、それだけじゃない気がするんだよな。イールはすごい、何でも知ってるし努力を惜しまない、ってめちゃくちゃ褒めてたけど」
「??? ……思い当たらないんですけど」
マジで思い当たらない。なんかしたっけ? しばし考えて、ようやく思い当たった。
「あー……もしかして」
「お、思い当たるフシあんの?」
「って言っても多分、誰が一緒でも同じだったと思うけど。アクセル様、野営したことなかったみたいで何も準備してなかったから、そのへんのノウハウを教えただけで」
「具体的に言うと?」
「布団作ってやって、飯の作り方もろもろ教えただけだよ。オレが役に立てるのなんてそんな事しかないだろうって思ってたし」
「なるほどなぁ。納得なようなそうでもないような。でも、きっとそういうたくさんのことが積み重なって、アクセルにとってめちゃくちゃ信頼できると思えたんだろうね」
「買い被りだと思うんですけど……ていうか、オレなんて魔術学校の中でも落ちこぼれで有名なくらいなのに、あんだけ魔法も剣も超人レベルに強い人が、オレなんかのことすごいって褒めるなんて、そもそもアクセル様がすごいんですよね」
「あー……あいつ、周囲から色々言われ過ぎて自己評価も低いし、誰かに対する噂話もどうせあてにならないって思ってるみたいだからなぁ」
「それ、ちょっとわかるかも。オレとしてはアクセル様といると楽しいし、良い印象持ってくれてるなら嬉しいけど」
「そっか。……おっと、そろそろ戻らないと」
「そうだった」
アクセル様を待たせてる状態だったと気が付いて、オレは慌てて席を立つ。
ヒューさんに連れられてルタムと一緒にアクセル様の元へ向かったら、オレ達を見つけたアクセル様が穏やかに微笑んで手招きしてくれる。
その日の昼休みは、最高に楽しかった。
なんだか、これまでとは全く違う、新しい毎日が始まるような気がした。
***
その日の放課後。
オレはアクセル様を自分の部屋に招くことになってしまった。
アクセル様が魔法を教えてくれることになったからだ。
アクセル様いわく、もしかしたらオレは、魔法を使えるようになるかもしれないらしい。
オレとアクセル様は互いに魔力を受け渡しできるから、もしかしたらそれをうまく使えば魔力のコントロールに役立つかもしれないんだって。
これから一緒に冒険者として活動するんだから、オレだって治癒系の魔法とかは特に使えるようになった方がいいに決まってる。
可能性があるなら頑張ってみたい。
そう思った。
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