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第41話 個人授業は照れくさい
アクセル様の部屋とは比べ物にならない質素で古びた部屋で、安物の茶葉を使って適当に淹れたお茶でもアクセル様は文句も言わない。
「ありがとう」
なんて笑顔で言えちゃうのがこの人のすごいところだ。
下校途中で買ってきたフルーツとヨーグルトと砂糖を簡単に混ぜた適当スイーツも美味しそうに食べてくれて、しかも褒めてくれる。
「さっぱりしていて美味い。初めて食べる味だ」
また食べたい、とか言ってくれるけど、はっきり言って切って混ぜただけだし、アクセル様が普段食べてるみたいに手の込んだものとはまるっきり違うから新鮮に感じるんだろう。
腹が満ちたらいよいよ訓練開始だ。
他者が来ることを想定してなかったオレの部屋には椅子が一脚しかないもんだから、わざわざマジックバッグから野営の時に使う簡易イスを取り出して使う羽目になった。ベッドにふたり隣り合って座って手をつなぐ。
ちょっと照れくさいけど、とにかく今は集中だ。
「じゃあ、俺が魔力を送るから、魔力を感じてみてくれないか?」
「了解!」
アクセル様がオレの手を両手でぎゅっと握って目を閉じた。
「あ……ちょっとあったかい、かも」
「そうか、イールは俺の魔力をそんな風に感じるんだな。ちなみに自分の魔力の巡りは分かるか?」
「それが良くわかんなくて。でも、アクセル様の魔力が入ってきたのは分かる」
「じゃあ、俺の魔力を意識的に体の中を巡るように動かしてみてくれ」
「……」
そう言われてアクセル様の魔力だと思われるあったかいところを動かそうと試みてはみるものの。
動け、動け、って念じてみてもなかなか念じたくらいで魔力の塊が動くわけもない。
体内の魔力を感じ取りにくいのが問題だって思ってたけど、さらにそれをコントロールするのもうまくできないとは。
自分のダメさ加減にガッカリするけど、簡単にあきらめるわけにもいかない。
イメージするんだ。
目を閉じて、アクセル様の手に包まれた手に意識を集中する。
じわじわと染みてくるような温かさが感じられて、その温かさが手から腕に動いてオレの中に深く染み入ってくるのを想像する。
……少し、あったかいと思う範囲が広くなった?
いや、気のせいか?
もっと、もっと腕の方へ……。
「イール」
「……っ」
一心に念じていたところに、アクセル様から声をかけられてハッとした。
「大丈夫か?」
「あ……なかなか、うまくいかなくて……」
「焦らなくてもいいと思う。でも、ちょっと試してみたいことがあるんだが、やってみてもいいだろうか?」
「っ! もちろん! ありがとう」
このまま粘ってもいける気がしなかったオレは、アクセル様の提案に一も二もなく飛びついた。
なんてったってアクセル様は魔法の扱いに長けてる。オレなんか足元にも及ばないわけだから、アクセル様にアイディアがあるなら、ぜひぜひやってみて欲しい。
オレの手をぎゅっと握ったまま、アクセル様が真剣に念じ始める。
「っ……?」
う、わ……。
なんか、変な感じ……。
今、オレの手の中で、熱がうにゃ、と動いた気がした。
「あ、うわ、ちょ……っ」
うにゃ、うにょ、と熱が動いて、なんだかすごく怖いし体の中を探られてるみたいで妙に恥ずかしい。
うにょうにょと動く熱は、じわじわと範囲を広げて、ついにひじ辺りまで到達する。
アクセル様の額には、汗が滲んでいた。
「アクセル様、ちょっと待って……!」
「む」
ふ、と集中の切れた顔でアクセル様がオレを見る。
良かった。体の中でうにょうにょ動いてたのが、ちょっと大人しくなった。
「いったんここまででいいかも……! 体の中で魔力動くの、なんか変な感じするしっ!」
「だが、魔力が動いているのは分かるんだろう?」
「あ……そっか。うん、めちゃくちゃうにょうにょ動いてる」
……けど、あれ? とオレは首を傾げた。
「今はちょっとおさまったかも。もしかしてアクセル様が、オレの中の魔力を動かしてる……?」
「ああ。でも、やっぱり自分の中の魔力を動かすようには簡単にはいかないな」
当たり前だ!!!
オレなんか自分の体の中の魔力すら思い通りに動かせないどころか、感知する事すらおぼつかないのに、他人の体の中の魔力までそう簡単に操られたりしたらヘコむどころの騒ぎじゃない。
「けれど、ちょっとイールがなぜ魔力を練るのが苦手なのか分かった気がする」
「えっ!!???」
「多分イールは魔力が多すぎて、魔力が凝縮しているのか……粘度が高い感じだ」
「粘度……ねばねばしてるってこと?」
「そんな感じだ。だから、排出するだけの魔力供与や魔道具の魔力補充は簡単にできるのに、体の中で魔力を巡らせて高めて魔法に紡ぐのは苦手なんだろう」
「……」
まさか、オレの身体の中がそんなことになってるだなんて。
「今、俺の魔力を媒介にして魔力を巡らせてみようかと思ったんだが、まるで泥の中にいるようになかなか進めなかった。多分同じような感じで、イールも魔力を巡らせられないんだろう」
「そうなのかな。でもオレ、自分の魔力もうまく感知できないから……」
その説が正しいのかどうかを検証しようもない。
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