アクセル様が感嘆の声を上げた。 「イール、体調に問題がなければ、思いっきり魔石に魔力を注いでみてくれ」 「了解」 「おおっ」 オレが思いっきり魔石に魔力を注いだ瞬間、アクセル様は驚いたような、興奮したような声を上げる。 「なんなんだ……」 不審げな呟きを漏らしたら、アクセル様は後ろからひょいと顔を出して、オレの顔をまじまじと覗いてくる。 「なんともないのか？」 「なんともないっていうか、魔石に魔力を注入するのって割といつものことだし。でもさすがに魔力がぐんぐん出て行ってる気はする」 「こんなに魔力が出て行ったら、俺ならとっくに昏倒している」 「オレ、魔力だけは多いから。まだ全然減った気がしない」 「だろうな。こうやって全身を覆ってると、イールの全身から魔力が抜けていってるのがはっきり分かるのに、まだまだパンパンに魔力が詰まってるんだから本当に不思議だよ。どれだけ魔力があるんだか」 「測定不能だったから魔力量は分かんないんだよね」 「発散できなくて体の中に魔力が溜まってしまった結果、こんなに凝縮してるんだろうな。通常は一定以上は増えないものだが……まぁとりあえずはいちど魔力を放出してしまえれば、普通に魔力循環できるようになるんじゃないか？」 「頑張ってみる！」 まだ魔石が熱くなってないところを見るに、まだまだ魔力を注入できそうだ。さすがに最高級魔石は違う。 魔石を握りしめて魔力を注入していたら。 「ふあぁ！！？？」 急に全身にアクセル様の魔力が入ってきて、オレは思わず妙な声を出すハメになってしまった。 「な、何した！？」 「すまん、触れ合っていたらどこからでも魔力を譲渡できるんじゃないかと思いついて」 「そういう事は言ってからやって……！」 「悪かった、許して欲しい」 「……いいけど」 声があからさまにシュンとしてるから、許さざるを得なくて困る。 最初に会った時は何事にも動じなくて、ひたすら強くて寡黙でかっこいい狼みたいな人だと思ったけど、実は好奇心旺盛で、こうと思った事には一直線で、それ以外はあんまり何も気にしない、割と偏りのある人なのかもしれないと思うようになった。 「しかし、やっぱり触れてさえいればどこからでも魔力の受け渡しは可能なんだな」 もう自分の考えに没頭してるし。 「イール、魔力の流れを感じるには、全身の魔力がある程度流れることができるくらい薄まる必要があると思う。今みたいに、全身の魔力を軽く攪拌して、全身からバランスよく魔力を輩出できるようにした方がいい」 「ええ～……」 思わず不満の声が漏れた。 アクセル様が言ってることは、多分正しいんだろうって感覚で分かる。 でも、アクセル様の魔力が体の中をかき回す感覚が、ちょっとずつ、気持ち悪いからくすぐったいに、くすぐったいからちょっとこう、なんか、ゾクゾクするような感じに思えてきてるのがヤバい気がするんだよ。 「イールがやめてくれと言ったらちゃんとやめるから、試してみてはもらえないだろうか」 うう……。 完全に善意で言ってるのが分かるだけに断りにくい。しかも、アクセル様はオレが魔法が使えなくて困ってるからなんとかしようって考えてくれてるんだもんな……。 そう思うと、オレがワガママ言うのはなんか違う気がするし。 オレは覚悟を決めた。 「……オレも男だ！　分かった、やってくれ！」 「できるだけ穏やかに魔力を動かすように努力するから、イールはそのまま魔石に魔力を注ぎ続けてくれ」 「いや、ひと思いにやってくれ。じわじわやられる方がヤバい気がする」 「そうか……？」 怪訝そうな声を出しつつも、アクセル様はオレの言葉を尊重してくれたみたいだ。 「……っ」 一気にアクセル様の魔力が、全身に侵入してきて、オレはその刺激に体を震わせた。 やっぱり、くすぐったいを通り越してゾクゾクする。 あ、でも。 全身から魔力が出ていくのを確かに感じる。それで初めて、さっきまでは魔石に近い方から順に魔力が出ていく感じだったんだってはっきり分かった。 「すっげ、魔力の流れる感じっての？　分かった気がする」 「本当か！」 「うん。なんか、魔力が動いてるのが分かる。アクセル様の魔力が混ざってるからかな」 「だとしたらイールの全身に魔力を送った甲斐がある」 「魔力の流れが分かるから、全身から押し出すみたいに魔力を押し出せてる気がする……！」 しかも、さっきまでよりもスムーズに魔石に魔力を送ることができるから、みるみる魔石に魔力がチャージされて、あったかく熱を持ち始めた。 「こんなスピードで魔石の魔力チャージができるなんて思わなかったな」 もう一個の魔石に持ち替えて魔力を送れば、びっくりするくらいスルスルと魔力がチャージされて体の中の魔力が薄くなっていくのが分かる。 アクセル様がオレの中の凝縮した魔力を溶かして、オレはその溶けた魔力を押し流すように魔石へと送り込む。 ふたつの魔石が魔力でパンパンになった頃には、オレの中の魔力もずいぶんと少なくなっていた。 「すげぇ、なんかちょっと寒いっていうか、体が冷たい気がする」