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第2話 帰り道のぬくもり
居酒屋の店内は、仕事終わりの喧騒と笑い声で賑わっていた。
チーム全員が一つの大きなテーブルを囲み、グラスを手に乾杯する。
「えー、まだまだこれからですが、良い感じに仕上げていきましょう!よろしくお願いします!」
日比野は少し照れくさそうに笑いながらも、肩の力を抜き、グラスを掲げる。
高村も静かに微笑んでグラスを掲げた。
チームの話は次第に雑談や最新の話題に移り、笑い声が何度も弾む。
日比野は微笑みつつ、ふう、と息をはく。
高村は横で、
「…ちょっと疲れてる?」
と聞いてきた。
日比野はチラリと高村を見て、少し笑った。
「…ちょっとね。俺、まとめるのとかそんな得意じゃないし。高村がやればいいのに」
高村はビールを一口飲み、穏やかに返す。
「日比野はそういうの向いてるよ。人がついてくるタイプだし。俺のほうが向いてない。データ集めとかのほうが好き」
高村は整った顔立ちで目立つが、表立った仕事よりも裏方のサポート作業を好むタイプだった。
日比野は顔を上げ、高村を見た。
「…めちゃくちゃ助けられてるからな、ありがたい」
高村は日比野に顔を向ける。
「ありがとう。明日からもよろしく」
「…ん。こちらこそ」
二人は互いの目を見て、自然と微笑んだ。肩の力がふっと抜ける、そんな瞬間だった。
⸻
お酒にあまり強くない日比野は、疲れていたのもあって、グラス二杯のビールで頬を赤らめ、ぼんやりとしていた。
「…日比野、大丈夫?」
高村が隣に座る日比野に声をかける。
「ん?だいじょーぶ。…ちょっと眠い」
ほわんとした調子に、高村はそっと微笑む。
「多分もうお開きだから、帰ろうか」
「…ん…」
そのままもう一軒行く人も多い中、高村は日比野を送る名目で二人で帰ることにした。
駅までの道を歩きながら、高村が少し心配そうに聞く。
「…家まで送る?」
「なんだよ、へーきだよ。このくらい全然一人で帰れる」
日比野がふにゃりと笑って答える姿を見て、高村は結局同じ電車に乗り込むことにした。
隣でうとうとする日比野を見て、静かに肩を差し出す。
「こっち、寄りかかって」
日比野は高村の肩に頭を傾け、眠気の中でもそこが妙に落ち着くことを感じながら目を閉じた。
しばらくして、
「…日比野、次の駅でしょ?」
高村の声でハッと目を覚ます。少し寝たことで酔いも落ち着いた日比野は、
「あ!…ごめん、寝ちゃってた…」
と慌てて謝る。
「全然平気」
高村は微笑み、優しく目を合わせる。
次の駅で日比野が降りるとき、高村も一緒に降りた。
「…あ、俺はもうここで大丈夫だから…ありがとう」
頭を掻きながら日比野は申し訳なさそうに言う。
高村は軽く笑って日比野を見た。
「気にしないで。ここで乗り換えだから。
……俺も少し癒された」
「…え?」
日比野は驚いたように目を丸くする。
「…じゃあね、おやすみ」
高村は軽く手を上げて歩き去る。
日比野は高村の肩で眠ったあたたかさと心地よさを思い出す。
(…確かに癒された…でも、高村もそうだったのかな…?)
と首をかしげながら、家路についた。
帰り道、頬に当たる夜風が少し冷たくて。
さっきまでのあたたかさを、なぜかまた思い出していた。
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