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第3話 触れた瞬間

次の日の午前中、会社にて。 「…あれ…?動かないな…」 コピー機の前で日比野が立ち往生していた。 エラー表示。この番号、何を意味していたっけ…?と機械の側面をのぞき込む。 「…それ、紙詰まりだよ。ちょっといい?」 ちょうど通りかかった高村が声をかけた。 コピー機前の日比野と入れ替わる時、肩と腕が軽く触れ合う。 一瞬、日比野の呼吸が止まる。 高村は屈んでコピー機を開け、中の紙を取り出す。 「…ほら、これで使えるよ」 「…ありがとう…。なんか、いつも助けてもらってばっかだな」 眉を下げて笑う日比野に、 「大したことじゃないよ、こんなの」 と軽く言い、高村はそのまま自分の席へ戻っていった。 日比野はしばらくコピー機の前で立ち止まったまま、高村の背中を目で追った。 肩に残る微かな温もりを思い出す。 それだけのはずなのに、妙に心に残る。 自席に戻り、パソコンの画面を見つめる。 昨日のことが頭をよぎり、さっき触れた肩のあたたかさがまだ残っている気がした。 (…なんだろう。俺、人恋しいのかな…疲れてんのか…?) 小さく息をつき、視線を逸らす。 窓の外、昼前の光がビルの隙間を照らしていた。 まるで何かを始める合図みたいに。  

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