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第4話 まっすぐな言葉

昼休み、社員食堂はランチを楽しむ人たちでにぎわっていた。 日比野はいつも通り、一人でトレーを持ち、空いている席を探して歩く。 「…あ、ここ空いてるか」 そう言いながら席に向かおうとすると、同じテーブルに座ろうとしていた高村とぶつかりそうになる。 「ごめん、気づかなくて」 日比野が頭を下げると、高村は笑って答えた。 「大丈夫。こっちも気づかなかったし。…せっかくだから一緒に食べようよ」    「あ、うん」 食堂のざわめきの中、二人の距離はほんの少しだけ縮まったまま、自然にそれぞれのランチを楽しむ。 「…そういえば、あの資料のデータのことでちょっと相談がある」 高村が口を開く。 「あぁ、じゃあ、ご飯終わったら話そう」 「うん」 二人はそれぞれ食事を終え、トレイを返却口へ返しに向かう。 「…あ、日比野。こっち」 高村が日比野の腕をそっと取り、自分のほうに軽く寄せた。 混雑する社員食堂内で、すれ違う社員とぶつからないようにしてくれたのが分かり、日比野の頬はほんのり赤くなる。 背の高い高村を少し見上げると、視線に気づいた高村が軽く眉を下げた。 「……ちょっとおせっかいすぎたかな。ごめん」 「なんで謝るんだよ?ありがたいけど」 日比野の素直な言葉に、高村は目を細めて微笑む。 「…日比野のそういうところ、いいよね」 社員食堂を出て通路を歩きながらのことだった。 「え?!…なにが…」 狼狽える日比野に、高村はにこりと笑う。 「素直でまっすぐなところ」 文字通りまっすぐに褒められ、日比野の顔は赤くなる。 その様子を見て、高村も柔らかく微笑む。 「…あと可愛い」 「馬鹿にすんな!」 プンスカと音が聞こえてきそうな怒り顔に、高村はあははと笑った。 その破顔は普段の落ち着いた印象とは違っていた。 社内でもイケメンと人気の高村の意外な表情に、近くを通った女性社員たちが思わず振り返った。

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