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第8話 そっと寄りかかって

それから、次の週の土曜日。 『お昼一緒に食べない?』 高村からのメッセージに、待ち合わせて蕎麦を食べることになった。 「…ん!美味い」 「でしょ?ここの蕎麦、俺好きなんだよね」 にこっと笑う高村と並んで、ランチセットの蕎麦を啜る。天ぷらもサクサクで、大満足で店を出た。 「美味かったぁ」 「良かった。…このあと、家に来る?」 微笑む高村に、日比野は少し赤くなりながら頷いた。 ――先週に続き、再び訪れる高村の部屋。 またハグされるのかと妙に緊張していると、高村が言った。 「今日は映画を見ようか」 「映画?…あ、うん、いいよ」 意外な提案に驚きつつも承諾する。 ソファの前のふかふかのラグの上に腰を下ろした高村が、自然な調子で足を開いて声をかける。 「…はい。日比野はここ」 「え、あ、……はい」 促されるまま、ドギマギしながらその前に座る。契約が始まったばかりでまだ慣れなくて、顔が熱くなる。 「俺に寄りかかって」 「でも、重くない?」 「いいんだよ。それが落ち着くから」 そう言って、日比野のお腹あたりに手を回す。言われるままに寄りかかり、頭を預けると、ふっと肩の力が抜けた。 「何見る?好みある?」 「んー、楽しいやつがいい」 高村が選んだ洋画を再生する。思った以上に面白くて夢中になっていたのに―― 気づけば、高村の温かさに包まれて眠ってしまっていた。 すうすうと寝息を立てる日比野を見て、高村は胸の前の顔を覗き込む。長い睫毛がかすかに揺れていて、思わず目を細めて微笑んだ。 「…日比野」 呼びかけにハッと目を覚ます。 「!!あ、ごめん!俺、寝てた…」 「それは全然いいんだけど。…映画つまらなかった?ごめんね」 「違う!面白かったのに…あったかくて気持ちよさが勝っちゃった」 素直な答えに、高村は笑う。 「先週も寝そうだったもんね。気に入ってもらえて良かった」 「うん…。高村は嫌じゃなかった?」 「全然。可愛くて癒された」 「……なら、いいけど」 たびたび言われる“可愛い”は、ペットが膝に居座って可愛い、の延長線なんだろう――そう自分に言い聞かせて、日比野はそれ以上ツッコまなかった。 「毎週ちょっとずつ続き見るのもアリだよな」 「毎週寝る気なんだ?…まあ、いいけど」 二人で笑い合いながら、秘密の契約の日々は穏やかに続いていった。

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