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第10話 手を繋ぐ午後

土曜の昼下がり。 ソファに並んで座りながら、映画を見ていた。 けれど、日比野は隣にいる高村の存在のほうが気になっていた。 ちら、と横を見ると、リラックスした表情で画面を見つめている高村。 その落ち着いた横顔に、なんとなく安心して、日比野の気持ちはふわりと緩んだ。 ――もうちょっと、触れる距離が良いかも… ソファの隙間に置いてあった自分の手を、そっと高村の手の近くへ動かす。 体ごと近づこうか、手だけ触れてみようか。 葛藤したまま固まっていると―― 「…繋いでみる?」 高村の声が、不意に降ってきた。 「っ…!」 日比野は慌てて顔を赤くするが、こくんとうなずいた。 次の瞬間、温かい大きな手が、指の隙間までしっかりと絡めてくる。 その感触に、胸の奥がじんわり熱くなる。 「…あったかい」 思わず口にすると、高村が小さく笑った。 「…なんか、いいね。俺もあったかい」 二人で微笑み合って、手を繋いだまま映画をまた見始める。 あたたかくて心地よくて、お互いの心まで繋がっていくような、不思議な感覚。 甘えたい気持ちを全部受け止めてくれる相手。 高村への信頼と安心感に包まれて、日比野は気づいたら高村の肩で眠ってしまっていた。 ハッと目を覚ますと、画面にはエンドロールが流れていた。 「…あ、また寝てた……ごめん」 慌てて謝る日比野に、高村は小さく首を振る。 「謝ることないよ。落ち着くってことでしょ?」 「うん…。俺、普段こんなに寝ないのにな…。お前といると、すぐ眠くなる…」 不思議そうに首を傾げる日比野の姿に、高村は笑みをこぼす。 「はは。癒しになってるなら嬉しい」 「なってるよ、勿論。……高村は?少しは癒しになってる?」 心配そうな視線を向ける日比野に、高村は即座に頷いた。 「なってるに決まってる。今日も日比野の寝顔見て、すごく癒された」 「…っ、ちょっと恥ずかしいな…」 耳まで赤くする日比野に、くすっと笑う高村。 「まだ恥ずかしいの?何回も見てるよ。手だって今もずっと繋いでる」 視線を落として、自分の手を見つめる日比野。 小さく息をついて、ぽつりと呟いた。 「……手、繋ぐの好きだな…」 「……俺も」 優しい声が返ってきて、自然と笑みがこぼれる。 繋いだ手のあたたかさが、かけがえのない時間に変わっていくのを、どちらも感じていた。

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