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第11話 小さなサプライズ
次の土曜。
お昼ご飯を外で一緒に食べてから、高村の部屋へ向かう。
マンションのエレベーターに二人で乗り込むと、扉が閉まった瞬間、高村が日比野の手を握った。
「…っ」
ドキリとして視線を向けると、高村はチラリと見て小さく微笑む。
途中で誰かが乗ってくるかも。
降りた先で誰かとすれ違うかも。
そんなことをぐるぐる考えながら、手を繋いだまま高村の部屋まで歩いた。
幸い、誰にも会わずに済んだ。
玄関の鍵を開けて中に入る。
扉が閉まった瞬間、高村が振り返り、日比野を見て笑う。
「どうだった?……あは、真っ赤」
日比野の顔は耳まで赤い。怒っているわけじゃない。照れと困惑と、胸のドキドキが全部混ざっている。
「…誰かに会ったら、お前が気まずいだろって思って……ずっとドキドキしてたんだよ」
ここは高村の部屋。もし知り合いに見られたら、高村が困るんじゃないか――そう考えていた。
「…そんなの気にしなくていいのに。……嫌だった?ごめん」
高村が少し眉を下げる。
「…ううん、嫌とかじゃない。高村が気にしないなら、俺も平気」
そう答えて顔を上げた日比野の頬を、高村がそっと包み込む。
「……ふふ、熱い」
「だって、びっくりしたから……もう…」
そう言って、日比野は思わずぎゅっと高村に抱きついた。
「……なんか…どんどん可愛くなってるよね」
高村が小さく呟きながら、やさしく抱きしめ返す。
自分は可愛くなんかないのにな…。
ただ甘えているだけで可愛く思えるものなのか…やっぱりペットみたいな感じなのかな?
そんなことを日比野はぼんやり考えながら、玄関で少しの間抱きしめ合っていた。
⸻
部屋に入って、高村が淹れてくれたコーヒーを飲みながら、軽く雑談を交わす。
けれど――日比野の胸の奥では、先ほどの“エレベーターでの手繋ぎサプライズ”がずっと残っていた。
(俺からも、何か…してみようかな…)
そう考えているうちに、会話が途切れる。
日比野はソファから立ち上がり、高村の前に立った。
「……?どうかした?」
不思議そうに見上げてくる高村。
日比野は意を決して、そのまま高村の膝の上に腰を下ろした。
向かい合わせになるように座り、高村の首に腕を回す。
「!!」
高村が一瞬固まる。
自分でやったことなのに、思った以上に恥ずかしくなって日比野の顔は真っ赤。視線を落とし、俯いてしまう。
ふ、と高村が笑った。
「…また真っ赤だよ?」
腰のあたりに腕を回して、支えるように抱き寄せる。
「…思ったより恥ずかしかった…」
小声でそう漏らす日比野を、高村は目を細めて見つめた。
「……可愛すぎない?…俺、多分、日比野が思ってる以上にやられてる」
「…サプライズ成功?」
恐る恐る尋ねると、すぐに笑みが返ってくる。
「それはもう、大成功」
その言葉に、日比野の口元がぱっと綻んだ。
「やった!それならやって良かった」
「……可愛すぎて、帰したくない」
高村の指先がするりと頬を撫でる。思ったより熱を帯びた手の感触に、胸がドキンと跳ねた。
「…泊まっていかない?ゆっくりしていけばいい」
不意打ちの誘いに日比野は動揺したが――断る理由なんてどこにもない。
むしろ、自分だってもう少し一緒にいたい。
こくりと頷くと、高村が嬉しそうに微笑んだ。
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