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第12話 となりで眠る夜

初めて高村の部屋に泊まることになった。 前に最後まで見られなかった映画を観て、高村が作ってくれた晩ご飯を食べる。 「美味っ!料理もできるのかよ…良い男すぎる…」 「…そんなに褒めても何もないよ。適当に作っただけだし」 珍しく少し照れたように微笑む高村の顔に、日比野もついニヤけてしまう。 お風呂に入り、先ほど近くのコンビニで買ってきた下着を履く。部屋着は高村のものを借りた。 「…似合うね、可愛い」 やたら可愛い可愛いと言う高村に、日比野は少し眉を寄せて不服そうな顔をする。 その顔を見て高村はくすりと笑った。 「たまにはゲームでもする?」 寝るにはまだ少し早い時間だったので、高村が提案する。 「ゲームやるの?意外」 「そんなにはやらないけど。対戦する?」 「お、やるか。俺も最近あんまりやってない」 二人でソファに並んでコントローラーを握る。スタート画面が映ると、高村が日比野を見て言った。 「…じゃあ、勝ったほうの言うことを聞くってルールでどう?」 「よし、乗った!」 接戦の末、高村が勝つ。 「あー、もうー!あと少しだったのにぃ」 「はいはい。じゃあ俺の勝ちね。言うこと聞いて?」 「…うん、なに?」 「俺のベッドで一緒に寝よう」 「…………は、はあ???」 「拒否権ないからね。じゃあ行こうか」 ソファから立ち上がった高村は日比野に手を差し出す。 寝室に布団を敷いて寝る、またはソファで寝るものだと思っていた日比野は、顔を赤くして混乱する。 「んえ…、ちょ、待って…」 「あ、ベッドは大きめだから安心して」 「そういうことじゃない…っ」 いつまでも手を出さない日比野の手を高村が取って立たせると、二人は寝室へ。 初めて入る高村の寝室。日比野は頬を赤らめながら見回す。 暗めの色味の家具と間接照明、真ん中に少し大きめのベッド。男二人で寝ても十分な広さだ。 「…一緒に…?」 「そう。寝ようね」 高村に促されベッドに入り、横を向くとすぐ近くに高村の顔があって心臓が煩く鳴る。 「…寝れるかな…」 ポツリと呟く日比野に、高村が手を差し出す。 「ほら、手を繋いだらすぐ寝れるよ、きっと」 日比野はそっと手を重ねて繋ぐ。 「じゃあ、おやすみ」 優しく微笑む高村に 「うん…おやすみ」 日比野も微笑んで返した。 じんわり伝わる手の温度とベッドのぬくもり。 高村の言葉通り、いつの間にか日比野は心地よい眠りに誘われていた。 ⸻ 「………ん、うーん……」 日比野は朝の光に目を覚まし、腕を伸ばす。 あのままぐっすり眠ってしまったらしい。頭はスッキリしていて、なんだか不思議な気分だった。 他人の家でこんなに眠れたことなんて、今まであっただろうか。 寝返りを打つと、 「おはよう」 高村がベッドに背中を預けて座っていて、日比野の頭を優しく撫でた。 「…おはよう…」 思わず声が小さくなる日比野。少し照れくさかった。 「よく寝れた?」 「うん、すごく寝た。…高村は?ちゃんと寝れた?俺、寝相悪くなかった?」 日比野が心配そうに尋ねると、高村はくすりと笑った。 「俺もよく寝れたよ。…寝相は…どうかな」 含みのある笑みに、日比野は焦って顔を赤らめる。 「え…蹴ったりした?…ごめん…」 「違うよ。…抱きついてきたから、抱きしめ返してただけ」 「!?……え、マジ…!?」 「マジ。…可愛かったので俺は大満足ですよ」 ふふ、と楽しそうに笑う高村を見て、日比野は思わず俯く。 「………もう、泊まるのやめる…っ」 「なんで。毎週でもいいのに」 「?!……もう、ばかぁ…!」 笑い声と恥ずかしそうに俯く顔が朝の光に混ざる、少し特別な朝だった。

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