18 / 38
第18話 月夜の帰り道
次の週も仕事が慌ただしかった。
会議にプレゼンの資料作り、取引先との連絡…その他諸々やり終えて金曜の午後、同期の中野が
「今週マジ忙しかったよなー!飲みに行くべ!な!」
と誘ってきた。
明日は高村がくるから午前中は掃除とかしたいけど、飲みすぎなければ問題ないだろう。最近飲みにいってなかったし良いな、と思って
「…メンツは?サシ飲み?」
と聞いたら、中野が得意げに答えた。
「いや、浅田と高村と芳川も誘ってる。同期会っぽくなった」
あ、高村もいるのか、なんて思いながら
「うん、いいよ。行く」
と答えた。
「おっけー。あとで店の場所送っとく」
と言って中野が去っていった。
夜。居酒屋で男同期会が始まる。
仕事の話から他愛もない雑談まで、話題が尽きなかった。そして、だいたいいつもの流れになる。
「どうなの?日比野は?」
「なに?彼女ならいませんけど?」
「お前さぁ、もっと出会いとか大切にしたほうがいいよ?休みの日に家でのんびりだけしてたら出会いが逃げるのよ」
隣の席の中野はすでに出来上がりつつあって、日比野の肩に腕を回しながら説教めいたことを言う。
確かに最近は、休みといえば高村と過ごすばかりで、そんなことは微塵も考えていなかったことに気づく。
今の甘え生活が居心地良すぎて、出会いを求めるとか、そもそも恋愛なんて発想がなくなっていた。
「高村は?…お前はモテるからなぁ」
話題が高村に移って、高村は苦笑する。
「…今はそういうの、いいかな」
「モテる男は余裕があるよなぁ。俺達みたいのは急いで探さないとまずいんだよ、わかる?日比野」
「俺に言うな!どうせモテないけど!」
中野が勢いよく日比野にもたれかかるように顔を近づけて笑う。
元々距離の近いタイプなのに、酔うと輪をかけて近くなる。
ゼロ距離でギャーギャー言う中野と日比野を見て他の同期が
「相変わらず仲良いなぁ、お前ら」
と笑った。
「………中野は?どうなの」
中野の隣に座る高村が、中野の腕を日比野の肩から外しつつ聞くと、中野が高村のほうにぐりんと振り返った。
「お、聞いてくれる?実は、彼女できましたー!!めっちゃ可愛いから見て」
と意気揚々とスマホを取り出す中野を見て日比野が吹き出した。
「…なんだよ、結局自分の話したいだけかよ…」
そんな風にワイワイと楽しく盛り上がり、2時間ほど飲んで過ごした。
⸻
「なんだよーもう帰るのかよ、付き合えよー」
と中野がうるさく言うのを「もう眠いし、帰る」
とあっさり断った帰り道。
「日比野」
と背後から呼ぶ声が聞こえて、振り返ると高村だった。
「ん?おまえも帰るの?」
「帰るよ。疲れたし結構飲んだ」
「だよな〜。もう飲めないよなぁ〜」
ふわふわとした話し方の日比野を見て、高村が目を細める。
「…送っていこうかな」
「なんだよ、全然へいきだよ」
「そう?……誰かの肩で寝たりしないでね」
高村が少し意味ありげに言った言葉を、日比野は気づかずに話し出す。
「…さっきさぁ、もしかして助けてくれた?中野うるさいからさぁ」
居酒屋で中野に絡まれていると言ってもいい状態だった日比野。話題を変えて引き剥がしてくれたのは高村だったことを思い出す。
「……助けたっていうか…」
「ん?」
「いや、なんでもない」
高村が苦笑する。
(くっついてるの嫌だっただけ、なんだよね…
言えないけど)
「ありがとう。たかむらってやさしいよな」
ほわほわと微笑む日比野に高村は少し天を仰いだ。
月明かりが綺麗で素敵な夜。
(……可愛い…。俺もう、まずいところまで来てるのかもしれない)
そんなことを思いながら高村は日比野の横を歩いた。
ともだちにシェアしよう!

