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第18話 月夜の帰り道

次の週も仕事が慌ただしかった。 会議にプレゼンの資料作り、取引先との連絡…その他諸々やり終えて金曜の午後、同期の中野が 「今週マジ忙しかったよなー!飲みに行くべ!な!」 と誘ってきた。 明日は高村がくるから午前中は掃除とかしたいけど、飲みすぎなければ問題ないだろう。最近飲みにいってなかったし良いな、と思って 「…メンツは?サシ飲み?」 と聞いたら、中野が得意げに答えた。 「いや、浅田と高村と芳川も誘ってる。同期会っぽくなった」 あ、高村もいるのか、なんて思いながら 「うん、いいよ。行く」 と答えた。 「おっけー。あとで店の場所送っとく」 と言って中野が去っていった。 夜。居酒屋で男同期会が始まる。 仕事の話から他愛もない雑談まで、話題が尽きなかった。そして、だいたいいつもの流れになる。 「どうなの?日比野は?」 「なに?彼女ならいませんけど?」 「お前さぁ、もっと出会いとか大切にしたほうがいいよ?休みの日に家でのんびりだけしてたら出会いが逃げるのよ」 隣の席の中野はすでに出来上がりつつあって、日比野の肩に腕を回しながら説教めいたことを言う。 確かに最近は、休みといえば高村と過ごすばかりで、そんなことは微塵も考えていなかったことに気づく。 今の甘え生活が居心地良すぎて、出会いを求めるとか、そもそも恋愛なんて発想がなくなっていた。 「高村は?…お前はモテるからなぁ」 話題が高村に移って、高村は苦笑する。 「…今はそういうの、いいかな」 「モテる男は余裕があるよなぁ。俺達みたいのは急いで探さないとまずいんだよ、わかる?日比野」 「俺に言うな!どうせモテないけど!」 中野が勢いよく日比野にもたれかかるように顔を近づけて笑う。 元々距離の近いタイプなのに、酔うと輪をかけて近くなる。 ゼロ距離でギャーギャー言う中野と日比野を見て他の同期が 「相変わらず仲良いなぁ、お前ら」 と笑った。 「………中野は?どうなの」 中野の隣に座る高村が、中野の腕を日比野の肩から外しつつ聞くと、中野が高村のほうにぐりんと振り返った。 「お、聞いてくれる?実は、彼女できましたー!!めっちゃ可愛いから見て」 と意気揚々とスマホを取り出す中野を見て日比野が吹き出した。 「…なんだよ、結局自分の話したいだけかよ…」 そんな風にワイワイと楽しく盛り上がり、2時間ほど飲んで過ごした。 ⸻ 「なんだよーもう帰るのかよ、付き合えよー」 と中野がうるさく言うのを「もう眠いし、帰る」 とあっさり断った帰り道。 「日比野」 と背後から呼ぶ声が聞こえて、振り返ると高村だった。 「ん?おまえも帰るの?」 「帰るよ。疲れたし結構飲んだ」 「だよな〜。もう飲めないよなぁ〜」 ふわふわとした話し方の日比野を見て、高村が目を細める。 「…送っていこうかな」 「なんだよ、全然へいきだよ」 「そう?……誰かの肩で寝たりしないでね」 高村が少し意味ありげに言った言葉を、日比野は気づかずに話し出す。 「…さっきさぁ、もしかして助けてくれた?中野うるさいからさぁ」 居酒屋で中野に絡まれていると言ってもいい状態だった日比野。話題を変えて引き剥がしてくれたのは高村だったことを思い出す。 「……助けたっていうか…」 「ん?」 「いや、なんでもない」 高村が苦笑する。 (くっついてるの嫌だっただけ、なんだよね… 言えないけど) 「ありがとう。たかむらってやさしいよな」 ほわほわと微笑む日比野に高村は少し天を仰いだ。 月明かりが綺麗で素敵な夜。 (……可愛い…。俺もう、まずいところまで来てるのかもしれない) そんなことを思いながら高村は日比野の横を歩いた。

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