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第19話 ハンバーガーと映画と猫
土曜の昼前、いつも通りの外での待ち合わせではなく、日比野の家のインターホンが鳴る。
「はい」
出ると、高村が微笑んで手元のビニール袋を見せている。
玄関のドアを開けると
「…わー、なんか良いね。日比野の家って感じだ。お邪魔します」
と嬉しそうに中に入る。
自分の部屋に高村がくることに少しだけ照れくささを感じて
「ん、まぁ、座って」
と少しぶっきらぼうに言ってキッチンに入った。
「あ、これ、お昼ごはん。どうする?こっちのテーブルに置いていい?」
高村から午前中に
『今日はお昼買っていくからお家で食べよう』
というメッセージが入る。
オッケーと返信してそのまま高村に任せていた。
「…そういや、なんで今日は家で食べるの?」
と日比野は素直に聞いた。
「え?…そりゃ、日比野の家、堪能したかったから」
高村がニコリと笑って答える。
「…どうせ泊まる気なんだろ。堪能はできるよ十分」
と日比野が笑った。
「まぁそうなんだけど、更にだよ。あ、お昼はハンバーガー」
日比野の家にはダイニングテーブルが無いので、リビングのテーブルに広げる。
「サンキュー。じゃあお茶のほうがいいかな。コーラとか?」
「俺、お茶がいいな」
「了解ー」
あたたかいお茶が入って二人でお昼を食べる。
「うまっ!ここのハンバーガー食べてみたかったんだー」
「よかった。こっちのチーズも美味しいよ?」
高村が見せると日比野がウズウズした顔で見てくる。
「…食べていいよ?」
高村がくすりと笑って日比野に渡す。
「え、いいの?やったぁ!じゃあ俺のも、はい」
「ありがとう」
微笑んでお互い相手のものを味見する。
「ん、こっちもチーズたくさんで美味い!……回し食いとか嫌じゃない?」
今更ではあるが、日比野は少し心配そうに高村に聞いた。
「…普段はあまりしないけど。日比野なら平気」
高村がにこりと微笑むので、日比野は少しだけ顔が赤くなる。
「…そう?嫌なら嫌って言えよ」
「大丈夫だよ。俺、日比野に嘘つかないから」
さらりとそんなことを言うので、ますます日比野の顔が赤くなる。
「……なんか、もう…」
「ん?あ、かっこいい?惚れちゃった?」
高村が冗談ぽく茶化してくるので肩にパンチを入れた。
「ばぁか。ほら、もう返せ。自分の食べる」
ハンバーガーをもごもごと大口で食べて頬いっぱいになっている様を見て高村は
(…リス…いや、ハムスター?
…言ったら怒られるな…かわい)
と心の中で思った。
昼ごはんを食べ終えて片付けを済ませると、日比野が
「どうしよう?映画でも見る?」
と何気なく言った。
「いいよ。…どうせ寝る気でしょ?」
高村がにやにやと笑う。
「そんなことないっ。今日は頑張る!」
ふんっと鼻息荒くテレビのリモコンを手にしてソファへ座る日比野。
その様子を見て、高村は堪えきれずにくすくす笑いながら隣に腰を下ろした。
「じゃあアクション系とか良いかもね。派手なら眠くなりにくいでしょ」
「確かに!何がいいかなぁ」
真剣に画面を選ぶ横顔を、つい微笑ましく眺めてしまう。
やがて有名アクション映画の続編を再生。
序盤は日比野も身を乗り出して見ていたが、冗長なシーンが続くと、ふあぁ、と大きなあくび。
「ほら、やっぱり。寝てもいいよ?」
高村が茶化すように腕を伸ばそうとすると、日比野がそのまま胸に潜り込んできた。
「…ねむ…でもまだ見る……」
小さく呟きながら、高村の胸に頭を預けたまま画面を見ている。
高村は一瞬固まって、それからそっと抱きしめる。
頑張って半分ほどは見ていた日比野も、やがて規則正しい寝息を立て始めた。
「……」
高村は目を細め、頭を撫でる。すると日比野はすりすりと頬をこすりつけて、むにゃむにゃと寝言を漏らす。
ぐ…っ、と喉が鳴るのを堪えながら、心臓が速くなるのを感じた。
(……やっぱり猫…?かわいい…)
どうせなら猫であってほしい。猫なら、いくら撫でてもキスしても、ただのスキンシップで済むのに…
そう思い込もうとしながら、もう一度やさしく髪を撫でた。
画面にはエンドロールが流れ始めている。
胸で気持ちよさそうに眠る日比野を抱えたまま、
「……俺だけドキドキして、ずるいな」
小さく呟いて、額をそっと日比野の髪に寄せた。
⸻
「…日比野。そろそろ起きようか」
高村のやさしい声と、肩をさする穏やかな手に、日比野がゆっくりと目を覚ます。
「……あ、また負けた…。睡魔め…」
「睡魔が強いんじゃなくて、日比野が弱すぎるんだよ」
「違うんだってば…前にも言ったけど、お前のせいなの」
「…俺がいると眠くなるんだっけ?」
「そう…お前あったかい…ネムイ…」
「カタコト…?」
ソファで抱き合ったまま笑い合う二人の姿は、もし第三者が見たら間違いなく恋人同士だと思うだろう。
それくらい自然に寄り添い、気を許しあっていた。
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