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第21話 やさしい朝と夢のあと(前編)

翌朝。 カーテンの隙間から朝の光が差し込む。 「ん〜……おはよ」 日比野がのびをしながら目を覚ました。 すぐ隣で高村が目を開ける。 「……おはよう、よく眠れた?」 「うん。すごくあったかかった。なんか、安心した」 無邪気に笑う日比野を見て、高村は思わず言葉を飲み込んだ。 (……俺は全然眠れなかったけど) 胸の中で寝息を立てる日比野を意識しすぎて、ほとんど眠れなかった。 「寝れた?」 「……俺も、あったかくて気持ちよかった」 日比野の問いに、ほんの少し間を置いて――嘘ではない範囲で曖昧に答えた。 「そっか、よかった」 日比野は満足げに微笑むと、すぐに布団から出て朝の支度を始めた。 「朝ごはん作る。しょうはゆっくり起きて」 慣れてきたのか割とさらりと名前を呼ばれて高村のほうがドキリとする。 残された高村は、こっそり息をはく。 (…どんどん可愛くなってるんだけど…?困るな…) 胸の奥に広がる熱を押し込めながら、そっと起き上がった。 日比野がキッチンで冷蔵庫を開けながら、 「昨日の残りもあるし、卵焼き作ろっかな」 と独り言のように言っているのが耳に入る。 高村は朝の支度をしながらその背中を眺めて、思わず口元を緩めた。 (……こんな光景、ずっと見てたいな…) 「何か手伝うよ。夜も作ってもらったし」 「良いよ。いつもお前んちでやってもらってるんだから」 と日比野が笑った。 ちょっと笑った顔すら可愛くて、高村は思わず目を逸らした。 「…うん。じゃあ、甘える…」 そう言ってソファに移動する。 「よーしできた!食べよう」 日比野が運んでくれた朝ごはんは、ザ・和食の朝ごはんという感じで彩りよい。 ご飯と味噌汁、焼き魚に卵焼き、昨日の白和え。 「…美味しい。良い朝だな」 高村がしみじみと呟くと 「…なんだそれ。良かったけど」 照れながら微笑む日比野に高村も微笑む。 日比野が可愛すぎるし寝れてないから眠いし、早めに帰ろうかと高村が服などの荷物を床に座ってまとめていると 「あれ?もう帰るの?」 と日比野が聞いてくる。 「…あー、どうしようかな、と思って」 と高村が曖昧に答えると 「……まだいいじゃん。なんかあるの?予定」 と少し拗ねた声で言ってくる。 「……ない、けど」 「じゃあもう少し」 日比野は座る高村の背中からぎゅ、と上に乗っかるように抱きついてくる。 自分の家だからなのか、いつも以上に甘えんぼうな日比野に、高村はかなりぐらぐらと揺れていた。 (……っ、可愛い…可愛すぎる…) ぐ、と覚悟を決めて高村はそのまま立ち上がって日比野をおんぶする。 「わぁ!!びっくりしたぁ!」 ぎゅ、と首に抱きついてくる日比野に高村は笑った。 「…じゃあ、なにする?このまま外行く?」 「行かない!!おろせ!」 「えー、やだな。……思ったより軽いね」 「そう?しょうが力持ちなんじゃない?」 「そうかな。なんか子どもみたいで可愛い」 「…可愛いってすぐ言う…」 「だって可愛いから」 「もう!おろせ!あと可愛い禁止!」 「無理無理。話すことなくなる」 「んなわけねぇだろ!」 ぷりぷりと怒っている声を聞きながら、高村は少し笑って妙に真面目に答える。 「……でもさとるが可愛いのは本当だし、言えないのはしんどいな」 「……っ、何言ってんだよ、もう…」 顔を赤くして黙り込む日比野。 高村はその背中を支えながら、笑ってごまかすように部屋の中を歩き回った。

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