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第24話 笑顔に触れた日曜日

高村が家に帰って夜、日比野からメッセージが入る。 『高村って犬は平気?アレルギーとかない?』 …どういうことだろう?と一瞬考えたが、明日の予定のことだろうと思い至る。 『平気だし好きだよ。アレルギーもない』 予定のことには触れないで聞かれたことだけに答えて返した。 明日の予定を一生懸命考えている日比野のことを想像するだけで笑みが漏れて、ハッとして口を押さえた。 ⸻ 日曜の午前10時。 「あ、ここ!ここ一度来て見たかったんだー!」 ニッコニコの日比野が指差すのは、大型犬多めのふれあいカフェだった。 受付をして中に入ると元気なワンちゃんたちがお出迎えしてくれる。 日比野がニコニコしながらゴールデンレトリバーを撫でているのを見て、 「日比野、犬好きなんだ?」 高村が微笑んで聞く。 「うん。ま、猫も好きだし動物全般好き。大型犬なんて飼うの無理だし、こうやって触れあえるのとか癒されるだろうなぁと思って」 「……癒されるの、好きだよね」 「…高村だって、好きだろ?」 日比野の近くに今度はサモエドがくる。 「わあぁぁぁ!かっわいい…サモエド!」 とキラキラの笑顔でもふもふの毛並みを撫でている。 (…どっちが可愛いんだよ…) と思いながら楽しそうな日比野を見ると高村も嬉しくなった。 高村のそばに先ほどのゴールデンレトリバーが来て近くに静かに座っている。 高村は日比野をチラリと見ながらやさしく撫でる。 「やっぱりおっきい犬、似合うな」 日比野が微笑む。 「そう?」 「うん。…ここ選んだのも、なんか高村っぽいなと思ったから」 犬たちをもふもふしながらさらりと言う日比野に高村は少し笑って聞く。 「俺、犬っぽい?」 「…ぱっと見はドーベルマンとかシュッとしたかっこいい犬っぽくて、中身はゴールデンみたいなやさしい犬っぽい、かな」 日比野がちょうどゴールデンレトリバーと戯れていて、高村はそれを微笑ましく見ていた。 「はぁー!楽しかった」 「みんな賢くて可愛かったね」 日比野が頷いて 「本当に。あーまた行きたい。めっちゃ癒される!」 とテンション高めに言う。 高村はそれをチラリと見て 「…そんなに癒されるなら、俺は要らなくなっちゃうな」 と少しだけ拗ねた声でつぶやいた。 「え!?いや、それは…」 日比野が慌てて首を横に振る。 高村がじとりと日比野を横目に見る。 「俺よりサモエドのほうがいいんだ」 「違うって!全然別だよ…」 日比野が困ったように眉を下げる。 高村がくすりと笑って 「ふふ、冗談だよ。……また行こうね」 と言うと日比野がホッとしたあとに 「…もう!お前!ばか!」 と頬を膨らませた。 その後ランチを食べ終えて、二人は街中を歩き出す。 「何か見たいところとかある?」 と高村が聞く。 「うーん。服屋とか見たいかな。最近行ってないから」 「良いね。どっか寄ろう」 二人は雑談をしながらお店を見てまわることにした。 「あ、このTシャツかわいいな」 日比野が足を止めたので高村も横に並んで止まる。 おしゃれな服屋さんの店内に飾ってあるTシャツを高村も見た。 「あぁ、似合いそう。あっちのシャツも合いそう」 高村が店内を見回して日比野に似合いそうな服を指差す。 「え、ほんと?俺あんまりセンスに自信がないからさ。似合いそうなの教えて欲しい」 日比野が高村を見て言う。 「いや俺も別にセンスとか…。でも日比野の服は選んでみたいな」 高村が微笑んで日比野に言う。 そして高村はささっと店内を歩き回って試着室の前に来た。 「はい、これ日比野の」 高村がニコニコしながら服を渡す。 「ん…。じゃあ着てみる」 と言って試着室に入って行った。 「…これ、着たけど…」 試着室のカーテンをそっと開けた日比野は、 淡いブルーのややゆったりめのストライプシャツに、黒のテーパードパンツというシンプルな格好だった。 けれど、不思議とラフなのに目を惹く。 高村は一瞬固まった。 「……良い。似合う」 ようやく出た声は、少し掠れていた。 「…いや、今一瞬詰まってただろ?変なら変って言えよ…」 「違うって。可愛い過ぎて声出なかっただけ」 笑って言う高村を見て日比野が顔を赤くする。 「…似合ってる…?」 「うん。すごく。かわいいし最高。さっきのTシャツとも合う」 「…高村が言うなら…買おうかな…」 顔を赤くしてモジモジして試着室に戻って行った姿に高村は (…どこまでも可愛いな…) とニヤニヤしそうになるのをグッと堪えて心の中で思っていた。 試着室から服を持って出た日比野に高村は 「はい」 と手を出して試着した服を持つ。 「?」 重くもないしそんなの持てるけど…?と思っていたのも束の間、高村がスタスタとレジに向かってしまう。 「!あ、待てって。これはいいよ」 「いいの。俺が選んだからプレゼントしたい」 高村がにっこり微笑んだ。 「選んでって言ったの俺だし…」 むう、と口を尖らせて不服そうな日比野に 「…じゃあ次は何か俺のもの選んで?」 と高村が言った。 「え、でも服はあんまり得意じゃないし」 「なんでもいいんだよ。メモ帳でもコーヒーでもお菓子でも」 「……そっか…」 「日比野が選んでくれたらなんでも嬉しいよ」 高村がやさしく微笑むので、日比野は顔を赤くした。 服屋の紙袋を持って駅までの道を歩きながら、 (次もあるってことだよな、デート…何がいいかな) と日比野は少しウキウキしていた。 泊まりじゃなくても、こうして日中一緒にどこかへ出かけるだけで十分楽しくて、嬉しかった。

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