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第25話 会えない週末、知らない誰か
それから、土曜に仕事が入ってそもそも会えなかったり、夜に高村に用事があって土曜の昼から夕方くらいまでを家で一緒に過ごしたり、そして日曜はどこかへ出かけることが多くなった。
予定があるから、と言って帰っていく背中を見送るたび、じわじわとした寂しさが募る。
でも、日曜のお出かけはとても楽しくて、全体的には寂しさと楽しさのバランスを保てていた…つもりだった。
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日比野が会社の休憩スペースで一人コーヒーを飲んでいる時、高村がこちらにやってくる。
「おつかれ」
日比野が声をかけると高村が少し眉を下げて
「…今週末、急な出張になった」
と少し低い声で言った。
「え?急だな…なんかあった?」
「大阪支社が担当してるメーカーの新製品発表イベントでトラブルがあって、応援に行くことになって」
「うわ、大変だな…」
「2日とも現場入るけど、代休は1日しか取れないみたいでさ。まぁ、平日にどこかでゆっくりするよ」
「そっか…」
「…そんなことより、週末が残念」
高村が横の日比野の顔を残念そうに見る。
日比野は少し笑って答えた。
「…それは…俺も残念だけど…。気をつけて行ってきて」
「…うん…。じゃあ」
高村は軽く手を上げて自分の場所へと戻っていく。
その後ろ姿を見ながら日比野はコーヒーを一口飲んだ。
(…そっかぁ…今週末どうしよう…)
寂しくなりそうで、少しだけ頭を振った。
日比野は、無理やり何か週末に予定を入れようかな、と考えていた。もちろん寂しさ対策として。
ちょうどそんな時、同期の中野から
『週末飲もうぜ〜』
と連絡が来る。
『いいけど、メンツは?』
と返信する。
『たまにはサシ飲みしようぜ〜』
と返ってきて
『了解』
と返してスマホを閉じた。
金曜の夜は飲みに行って、土曜は家の掃除とか買い物とかしよう。で、日曜はずっと誘われていたゴルフでも行ってみるか…
そんな感じでスケジュールを考えていた。
⸻
金曜日の退勤後、居酒屋へ。
くだらない話から中野の彼女の惚気話まで色々盛り上がる。
中野が、
「そういえば、どうなの?日比野は相変わらず色恋沙汰は無し?」
と聞いてくる。
日比野は少し眉を寄せて
「…今は別にそういうの必要ないっていうか…
結構幸せで満足してるし」
と答えると、中野が
「お前そんなこと言ってると同期でお前だけ独り身とかにすぐなるぞー?…そうだこの前、高村にさぁ」
と話し始めた。
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中野が高村と会社ですれ違った時に話しかける。
「同じ部署の女子たちが高村を飲み会に誘ってくれってうるさいんだよ、どう?飲み会」
高村は中野の話に珍しくうんざりした顔をした。
「…行かないよ。そういうの断っておいてくれると助かる」
「そうは言ってもさぁ、納得してくれないのよ。イケメンで彼女がいないって言ったらさぁ…」
「……じゃあ彼女いるってことにしとくかな。面倒だし」
と高村は腕を組んで考え込む。
「そりゃ言っといてもいいけど。逆に良いの?そんな嘘ついたら出会いが無くなるよ?」
中野の言葉に高村は苦笑した。
「社内に出会い求めてないから。……というか、もう…」
最後のほうの小さめな呟きを聞き逃さなかった中野は
「ん??もう?出会ってるってこと?いるんだ?そういう人」
「………いや、そういうんじゃない。…じゃあ、よろしく」
高村は口が滑ったことを誤魔化すようにサッと話を終わらせてその場を去った。
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「って感じで!高村、あれいるわ!隠してたけど。彼女なのかそれ未満なのか、そんな感じの」
「…………へぇ……」
「なんか本気っぽいからあんま茶化さないでおこうと思うんだけどさ、高村真面目だし。日比野なんか知ってる?」
「………え?なに?」
「だからー、高村の好きな人の話!」
「……いや……全然、知らない…」
日比野はぐいっとジョッキのビールを飲み干した。
高村の…好きな人…
そんな話、今まで聞いたことはない。
だけど、一つだけ、その話が腑に落ちる出来事があったことを思い出す。
以前、高村が夢を見て誰かと間違えて自分にキスをしようとしたこと。
(……やっぱり、現実にいる人だったんだ…)
元々、「恋愛は要らないけど癒されたい」と始まったのが現在の日比野との関係でもある。だから今は恋愛に興味はないんだと思っていた。
(……でもどこかで素敵な人に出会えば、気持ちなんて変わるものだよな…)
最近、土曜に会うのが減ったのは、泊まらなくなったのは…その人に会ってるから…?
だったら、日曜も、俺なんかと遊んでいる場合じゃないのかも…。
高村に直接聞くべきだろうか。
横で中野が違う話題をお喋りしているが、遠くに霞んでいく。
適当に相槌を打ちながら、だんだんと心が萎んでいくのがわかる。
なんでこんなに気分が落ちているのか、自分でもよくわからない。
新しいジョッキに口をつけて、その苦さに顔を顰めた。
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