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第26話 会えない週末、土曜日

土曜日、日比野はぼんやりと過ごしていた。 ぼんやりしながらも、掃除や洗濯はなんとか終わらせた。いつもの倍くらい時間がかかったけど。 昼は家にあったカップラーメンを啜って適当に腹を満たし、買い物でも行くか…と考える。 でもなんだか外には出たくなくて、今日は家で過ごすか…とソファに寝転がった。 なんでこんなにやる気が出ないのか。 昨日の高村の話がそんなにショックだったのか? よくよく考えてみて、きっと、今一番近くにいると思っていた自分に高村がその話をしてくれなかったから、すごく残念な気分なんだろうと結論付けた。 現在甘える特殊な関係ではあるけど、同期で友人であることに変わりはないし、毎週末会ってるのになんで教えてくれないんだろう、という…怒りというより、悲しみに近い感情だ。 そうだ、きっとそうだ。 もうこのことはこれ以上考えるのはやめよう、とソファから起きて、やはり買い出しに出かけることにした。 ⸻ ――大阪。 大阪の朝は、東京よりも少しだけ空気が柔らかい気がした。 ホテルを出て会場へ向かう電車の中、いつもより早起きしたせいか少し眠い。 胸の中で眠る日比野の顔がなぜか浮かんで、 (…どれだけ会いたいんだよ、全く…) と自分自身に呆れた。 日比野に嘘をつきたくなくて、最近は無理矢理に土曜に予定を詰めて泊まらないようにしていた。 それでも会いたくて日曜に出かけたりして、矛盾した自分に笑いそうになる。 (出張で週末つぶれるとか…なにかの罰なのかな…) 会いたい気持ちを弄ばれているのか、それとも戒められているのか…? 電車の吊り広告に目をやりながら、そんなことを考えていた。 会場に着くと、すでに支社のメンバーや協力会社が慌ただしく動いていた。 「高村さん、こっちの資料確認お願いします!」 声をかけられるたび、頭を切り替える。 東京の案件とはまた違う現場の空気に、少し緊張感が走る。 午前中は準備に追われ昼食を簡単に摂り、午後のメインステージでは、クライアントの新製品発表プレゼンが行われた。 司会者の声、カメラのシャッター音、照明の熱。 大きなトラブルもなく進行が終わったとき、ようやく息をついた。 夕方、撤収作業を見届けたあと、支社メンバーと軽く打ち合わせ。 「助かりました、高村さん。やっぱり現場慣れてますね」 そう言われて、少し照れて微笑んだ。 ホテルに戻り、スーツを脱いでシャワーを浴びる。 疲れがどっと出て、ベッドに腰を下ろした瞬間、 頭の奥に、あの穏やかな笑顔が浮かぶ。 ベッドサイドに置いていたスマホを手に取ってメッセージ画面を開いた。 ⸻ 土曜の夜、ベッドに寝そべっていたら高村からメッセージが届いた。 『無事に終わりそう。そっちはどう?』 高村からの連絡に嬉しさと同時に少し戸惑いも感じる、複雑な気分だった。 『お疲れ様。ゆっくり休めよ。今日は俺はダラダラしてた。明日はゴルフしてくる』 と短めに返すと、すぐに返信が来た。 『ゴルフ良いね。今度俺も一緒にやってみようかな。おやすみ』 その文字を目にした瞬間、高村の声が耳に響くようで、不意に口元が緩む。 『俺も初心者だから一緒に練習するのも良いな。おやすみ』 と返してスマホを置く。 休みの日に俺が誘うのは、高村と“その相手”の時間の邪魔をしてるんじゃないか…?会うのはやめたほうがいいのかな…なんて考えながら、 でも高村が会いに来るなら、別にいいよね…と思ってみたり。 ぐるぐると行ったり来たりする頭を休めたくて、そっと目を閉じた。

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